おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

ベルギー戦を前に  (第1164回)

 こんにちは。「ポーランド戦の最後のパス回しを批判するのは頭の悪い証拠」と、橋下徹氏に一蹴された寺本と申します。遠い昔、弁護士さんや検事さん達と何年ものプロイジェクトでご一緒させていただいたとき、彼らが笑いながら「法曹三者のうち、頭と性格が良いのが裁判官に選ばれる」と話してくれたのを思い出しました。

 四年に一度の大会だし、プロですから日本チームも是非、優勝を狙ってもらいたいですが、一チームしか優勝しない以上、敗退のおそれは常にあり、敗退してから批判的にみえることを書きたくないので、今のうちに雑感を纏めておきます。

 
 まず、前回書いたような、見ている子供たちのことも考えろというような甘ったるい主張は、いい加減にしておけという意見があります。

 いい加減にしません。プロスポーツ界ほど、子供を大切にしている業界もそうはないです。いずれこの中から大選手が生まれ出づるだろうし、ファンも増えるうえ、親にスタジアムに連れていってと頼んでもらえれば、宣伝効果もあります。ワールドカップ、試合開始前に選手たちがピッチに入場するとき、誰と出てくる? 


 橋下先生も、その良い頭で考えていただきたいことがあります。あのパス回しは、もう済んだことだという意見も出ていますが、そうは思えません。考え過ぎならいいのですが、あのブーイングを思い出してください。米国駐在時、野球やアメフトの試合を十回ぐらいは観に行ったし、テレビではその数十倍は見ましたが、あんなに長いブーイングは記憶にありません。

 音の大きさはテレビ越しなので、よくわかりませんが、現地の記者たちから大音量だったという記事が来ていますので、相当、身銭を切った客を怒らせたようです。日本のファン以外は、ほとんどが開催地のロシアや、近所のヨーロッパ諸国のサッカー・ファンだろうと思います。


 これが次のベルギー戦に、どう出るか心配です。観客と審判を「アウェー」に回したら、どういうことになるでしょう。願わくば、日本チームの後方でのパスやファウルのたびに、ブーブー言われずに済みますように。

 あのボール回しは立派な戦術だとほめちぎっているみなさんは、こういう副作用を覚悟のうえのことかどうか、考えたことがありますでしょうか。ちなみに、あのパス回しについてはチームの発言も歯切れが悪く、ただ一人、大迫が「普通のこと」と語ったそうですが、あれはディフェンダーを護っているのだと思います。



 さて、今日は前回、書き残したポーランド戦の、先発出場選手の交代の件が主題です。私はたまたま、その試合の予定日の朝、毎日チェックしているネット・ニュースの一つで、日刊ゲンダイの「西野監督が大博打 ポーランド戦先発6人入れ替えの“黒幕”」という記事をみました。読めば本当に、先発を6人替えると言い切っており、冗談もほどほどにと思いました。

 そして、その通りになった。交代で出た選手名まで、大当たり。しかも、私はこれしか読まなかったのですが、他の複数のメディアにも出たらしい。さらに、試合後、本田や長友が、報道姿勢に関して苦情やお願いを語るという妙な展開になりました。単なる秘密練習の「覗き見」では、こうはなりますまい。情報漏洩かもしれませんが、情報源を推測しても意味がありませんし、後味が悪いのでやめます。

 しかも、フォーメーションまで変えた。監督は岡崎の得点力に期待したように感じますが、どうでしょう。しかし、岡崎は直前まで脚の具合がわるく、代表入りも危ぶまれていると報道されていました。それでもこの大会、サブで活躍してきたのですが、この日は運悪く良くない方に出ました。あれで、選手交代の予定やらリズムやらが変調をきたしたように思います。


 スポーツ・マスコミも、言いっ放しにも程があると思うのは、ポーランド戦の前、NHKの朝のニュースも含め、こういうことを強調していた覚えがあります。すなわち、日本のグループは、トーナメントに一位で進出すると、二位で出るときと比べて、トーナメントの緒戦が一日遅いというスケジュールになっているので、それだけ休める。

 相手も休めるのですが、しかも、会場の高温多湿はむしろ欧州チームのほうが苦手だと推測するのですが、まあ、それはいい。このスケジュール比較を話題にするということは、前提として、日本チームが他国比かなり疲れており、ベスト8に進むためには、ぜひとも一位で予選リーグを突破してほしいということだと思います。


 しかし、現実には、監督が選んだのは、もっと前のポーランド戦で主力を休ませるという判断でした。世間では、これとパス回しを併せて、おそらく称賛の意味で「大博打」、「ギャンブル」、橋下論では「胆力」などという声も多いのですが、私はそうは思えなくて、むしろ極めて慎重な消極策だと感じます。
 
 消極策などというと叱られそうですが、先ほどのスケジュール論が適切であるとすれば、一言でいうと、強く出て一位通過を狙うというハイリスク・ハイリターンを避けて、失点と警告を防ぎ二位で勝ち残るというローリスク・ローリターンの方策を選んだということです。これは悪く言っているのではありません。現場しかできない判断です。


 西野監督は温情のあるお方だと思います。理由を述べます。周知のとおり、直前で代表監督になりました。選手の個性は組織内でよくご覧になっていたと思いますが、この人事異動は準備期間もないまま、人事部長が急きょ工場長になるようなものです。しかも、前任者の工場長がクビになっており、選手たちにも動揺があったと思います。

 このチームを引き連れるにあたり、選手にどういうインセンティブを提供するか、これはきっとサッカーに限らず私たちの人生でも似たようなことが起こりうると思いますので、あれこれ思案するだけのことはありそうだと思い、昨日、あれこれ思案しました。


 私たちが、過去縁のあった教師や上司のうち、感謝の気持ちを以て思い出せるのは、どういう人でしょう。人それぞれでしょうけれども、私の場合は、自分を成長させてくれたひとです(費用対効果に問題がありますが)。しかし、西野監督には代表チームを育成する時間的余裕がほとんど無かったはずです。

 では、先ほどの論に戻って、インセンティブはどうする。意識してのことか無意識だったか分かりようがありませんが、この先発選手交代の規模、団結が戦力であるチーム、そして、その後の徹底した二位狙いの戦法からして、私はこういうふうに思っています。なるべく多くの選手に、なるべく多くの出場機会を提供する。

 こういう観点からすると、胆力という言葉を使うなら、ゴール・キーパーだけは代えなかったことだと思います。
 

 ベルギーは2002年、記念すべき日韓大会の緒戦で当たった相手です。あのとき、ベルギー・チームは、よりによって主催国の一つと同じグル―プに入ったうえ、大会前のキャンプ地まで日本国内でした。ブーイングの嵐を覚悟で来たと新聞に出ていました。出迎えたのは、今も被災後の生活に苦しんでいる熊本のひとたち。

 前にも書いたような気がしますが、沿道でベルギーの三色旗(おそらく手作りでしょう)の小旗を振る地元の方々に、「ベルギー」、「ベルギー」と出迎えてもらい、良い国に来たと彼らが語り合ったという話も新聞でみました。あのとき、ベルギーは一位通過し、優勝したブラジルに初戦で敗れました。今大会では、ものすごく強いらしいから、敵にとって不足なし。歴史は夜つくられるとも申します。




(おわり)




猛暑が何だ ロックの季節  (2018年6月29日撮影)















If you can't rock me, somebody will.

- The Rolling Stones










































.