おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

人工知能の慰霊  (第1131回)

 変なタイトル。そもそもが、何回か前にAIについての雑文を書いたところ、そのあとでAI関連の変な報道が二つ続いたからだ。ご覧になった方も多いと思う。一つは中国発のニュースで、AIの知能指数はニ三歳ぐらい、せいぜい6歳児程度だというもの。

 もう一つは、マイクロソフトのAIが暴走し始め、人種差別だのナチス賛美だの(どこかの国の政治家レベルの)妙なことを口走り始めて、稼働停止になったというような話題でした。


 後者はどうやら、SNSなどを通じて、良くないことを吹き込み続けた暇人がいたり、声の大きい誹謗中傷の書き込みをネットで拾ったりした挙句、これが常識や通説とでも思いこんだらしい。そうならば、最初の幼児説と同根だろう。親が教えるとおりに、考えたり喋ったりするお年頃だ。

 では、囲碁や将棋やチェスで、6歳児レベルのAIが勝てるのか。強力な親の役がいれば、勝てる。駒の動かし方だの、目の数え方だのというルール自体はシンプルなものだ。その運用が難しいが、過去の事例集(棋譜やら詰将棋やら)が充実していれば未来予測や選択ができる。


 すなわち原理的にはヤン坊マー坊の天気予報における降水確率と同じで、統計から確率を見込み、判断をすることになる。実際、私ごときでも幼稚園児のころには、家族や親せきから教わって、将棋や花札をやっていた。蓄積がないから(後に判明したところによると能力もなかったが)、勝てないだけだ。

 鉄腕アトムはどうだろう。人間の大人より、まともな人だった。つまり、人類の文明はまだアトムのレベルに追いついておらず、SFのままだ。アトムは21世紀少年である。開発は間に合うかな。間に合った途端に、敵も間に合うだろうな。


 この先は一気に、漫画の感想文になります。ヴァーチャル・アトラクション(VA)は、人工知能と呼んでよかろうと前に言った。遠藤健児がVA内で出会った顔のない少年は、その原型である人物が死んだあとでも動いており、ケンヂが「国連軍の手先」であるという最新情報まで握っている。

 国連軍による「内面の調査」の目的は、再発予防と事後処理なのだろう。テロリストの残党は逃亡したままであり、ウィルスやら何やら持ったままの狂信者であるおそれが大きい。本物かどうかはともかく、テーマパークの「反陽子ばくだん」の爆発物処理も終わっていないはずだ。


 ケンヂがその目的だけで手先になるなら、仲間をおおぜい連れて行っても良さそうなものだ。でも、彼にはまず間違えのない心当たりがある。その少年がVA内にいるはずなのだ。直接いじめたのではないが、いじめのきっかけを作り、いじめを見て見ぬふりをした相手である。一人で行きたい。

 その少年が、なぜその小学校時代のケンヂの行動を知っていたのかという点で、むかし悩んだまま答えが出ていない。でも第三者の誰か(フクベエでもサダキヨでもいいが)の記憶に残り、それがVAに再現されていれば、あとからでも分かるだろう。


 お面の少年が、ただの昔の小僧ではなく、大人の思考回路を持った人工知能であることを知って、ケンヂは驚いた。やることが増えたのだ。そいつが誰なのかを突き止めるという当初目的に加えて、この憎たらしいAIをなだめないと、菅公のごとく祟りをなし、地球を吹っ飛ばすかもしれない。

 鎮魂の旅はその後、相手がケンヂを試す方向で展開する。結論からいうと、ケンヂが相手の名前を思い出し、かつ謝罪した(正確には、自分の少年時代のAIが代行するよう導いた)ことにより、仮想の世界も現実の世界も事なきを得ることになる。


 いじめも万引きも、私が子供の頃から日常的にあって、だからこそ「20世紀少年」の舞台設定に使われたのだが、現代に至り、件数的にも質的にも悪い方向に向かっているらしい。しかも、子供の悪さだけではなく、いい歳した大人が捕まっている。

 15歳以上(おおむね義務教育修了後)の働く意思と能力のある人の数を、専門用語で労働力人口といいます。戦後日本の労働力人口がピークに達したのが、連載開始ごろの1990年代半ば(65歳未満でいうと1995年が頂点)。


 その後の日本の社会経済は衰退の一途をたどっており、ここで何とか頑張らないと次の世代に顔向けができない。いじめの報告件数も、パワハラの訴えも、最多記録を更新した。鉄道業界によると、駅員さんに暴力を働いた者の6割が、50歳以上だそうで、たぶん殆どが酔った男だろう。

 前回、いじめの教育を小中学校の道徳教育でやるのかと疑義をとなえたのも、弱い者いじめがダメだというのは、6歳児ぐらいまでに叩き込む躾の問題だと思うからです。そうしないと、みんなで弱い者をいじめ出したとき、自分が更に強い者に叩かれることになる。それは、困る。



(おわり)




台風一過、夕暮れ時の富士山  (2017年10月23日撮影)







 純音楽の道なき道を...
      「史上最長寿のロックンローラー」 遠藤賢司 合掌
























































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