おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

運命の日 (20世紀少年 第782回)

 第22集の実質的に最後の絵は、ステージで抱き合うケンヂとカンナ、取り巻く仲間たちを鳥瞰したような構図です。嬉しいのは氏木氏が相棒の金子氏と角田氏に再会できて、一緒に並んでこのステージに立っていること。ケンヂが東京に持ち帰ると約束した未完の原稿も、氏子氏がしっかりと両腕で抱えている。

 この場にいてほしい最重要人物はキリコだが、いま手が離せないのだ。その事情は少し前のページでオッチョおじさんがカンナに、キリコが作ったワクチンが円盤の墜落現場周辺で緊急配布されていることを伝えている。撃墜王は細かいことにも気が利くのだ。

 そういえば神様とコイズミがおらん。この二人が揃ってご不在ということは、この忙しいときにどこかでボウリングをやっているか、アイスを食べているに違いない。コイズミは自らエロイムをひっぱり出しておいて不在とは失礼ではないか。なぜかダミアンだけ顔が描かれていないが、ヘルメットの後ろ姿が彼か。ケンヂとの再会、感無量であろう。


 コミックスでは次のページが黒塗りで、例の目玉マークが描かれているのみ。これで終わりかと思いきや、2ページだけの続きがある。続きとは言え、むしろ「21世紀少年」のプレヴューみたいなもので、ヴァーチャル・アトラクション(VA)内の神社が舞台だ。

 夜の境内に忍び込んだのはケンヂとヨシツネとマルオ。ケンヂ少年はマルオのランニング・シャツに飾られているウルティモ・マンの当たりバッヂに目を留めて、「当たったんだ、それ」と言っている。マルオが自慢すると、ケンヂは彼に宇宙特捜隊なら一人で行けと命じた。噂では神社にも幽霊が出るそうで、またしても肝試しなのだ。


 この日は何年何月何日か。これから「21世紀少年」を読み進めていくことになるが、ジジババのババが「バッヂが一つ足りない」ことに気付いた日と、マルオが当たりくじを引いた日は同じであり、カツマタ君がババに折檻を受けたのもまず間違いなく同じ日。

 VA内のことながら、サダキヨが「転校するんだ」と言っていること、後に1年未来に飛ばされたケンヂが神様のボウリング場に出現し、少年時代のモンちゃんとケンヂが埋めたばかりとぼやきながらカンカラを掘る場面があるので、この夜の神社のシーンは彼らが5年生の1970年の夏で間違いなかろう。


 日付の特定は困難だけれど、第8集によると1970年(新聞の日付は故意に71年になっていたが)の8月28日にコイズミはVAに送られ、首吊り坂の肝試しにご招待を受けている。この日付は第16集のフクベエのインチキ日記の日付とも合っているので間違いないはず。

 その日のVAではマルオも含めた少年たちが、ジジババのアイスが当たるともう一本もらえるとコイズミに期待を抱かせたうえで足元をすくって楽しんでいる。ということは8月28日のコイズミ乱入時はまだマルオはクジを当てておらず、しかしサダキヨの転校は決まっていて、だがまだ転校はしていないから夏休みの間だろう。


 したがって、この運命の日ともいえるバッヂの当たりと万引事件が重なった日は、8月28日から同月31日までのどこかの日だ。だが28日の夜は首吊り坂で多忙だったはずなので(しかもケンヂは恐怖のあまり走り去っている)、同じ日に神社にも行ったとは考えにくい。したがって、29日、30日、31日が有望な候補です。急ぐ必要もないので検証は後日に譲ろう。

 でも忘れないうちに書いておきたい。ケンヂが万引きして逃げたとき、目撃者となった自転車のマルオはバッヂをつけていない。彼の当選はケンヂ逃走のあとであり、かつ神社の肝試しは更にそのあとという順番になる。


 ということで、マルオを羨ましがっている感じのケンヂ少年は、既に実はバッヂを手にしているのだが、大っぴらに付けて歩くとカツマタ君と同じ目に遭うことになりかねないので、外出時に使えず仕舞っておくしかないからこそ、マルオがうらやましいのだろう。自慢できないのである。

 ともあれ、ここでのケンヂは勇ましく、神社におばけなんかいるわけないだろうという正論のような屁理屈のようなロジックで、おそらく自らを奮い立たせ、ヨシツネとマルオを置いて一人、神社に向かった。神社は首吊り坂の古屋敷と違って、神とアクセスできる機能もあるのだ。

 
 しかし変なおじさんが居たのでケンヂ少年は腰を抜かしている。おじさんは「何、おばけ見るみたいな目で見てんだよ」となかなか鋭い観察眼を持っているのだが、まあ自分自身のことだからなー。ケンヂ少年は腰を抜かしたままで、「おじさん、おばけじゃないよね」と確認し、続いて「ここで何やってんの?」と訊いた。

 ケンヂおじさんは「ここで、決着つけにきたんだ」と答えている。さて。ここでコミックス第22集の最終話は終わっている。ところが手元の本には、その次のページに連載時のスピリッツに載った広告に違いない見開き2ページの宣言文句が出てくる。


 それによると、一番大きい活字は「最終章集中連載開始」であり、その上に「週刊ビッグコミックスピリッツ」で12月25日発売号より、と付されている。さらにその上に「”ともだち”が仕掛けた最後の罠!?」とあるから、すにで内容は定まっていたはずなのに「21世紀少年」の表示は全くない。

 このあたりの事情を私は全く知らない。物語は隙間なく連続しているので、別名の作品にする必要を感じない。何があったのか分からないけれど、文句つけても仕方がないので、次回から「21世紀少年」上巻に移ります。



(この稿おわり)






カンナ (2013年7月25日撮影)
















































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