おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

日曜日の朝  (第1078回)

 前回の続きを始めるにあたり、両政府のサイトなどには、当日の催し物や講演内容が掲載されているので、ご参考までそのうちの幾つかを記録に残しましょう。

(1) 外務省 「安倍総理大臣のハワイ訪問」
 http://www.mofa.go.jp/mofaj/na/na1/us/page3_001940.html

(2) 首相官邸 「米国訪問 日米両首脳によるステートメント」 【安倍総理発言】
 http://www.kantei.go.jp/jp/97_abe/statement/2016/1227usa.html


 さらに、オバマ大統領の資料もある。和英両方。

(3) 在米日本大使館(仮訳) 「真珠湾におけるオバマ大統領の演説」
 https://jp.usembassy.gov/ja/remarks-president-obama-and-prime-minister-abe-japan-pearl-harbor-ja/

(4) ホワイトハウス ”Remarks by President Obama and Prime Minister Abe of Japan at Pearl Harbor”
 https://www.whitehouse.gov/the-press-office/2016/12/28/remarks-president-obama-and-prime-minister-abe-japan-pearl-harbor


 あくまで、「私にとっては」であるが(嫌われるのを覚悟で申す)、この中で内容・構成ともに一番面白いのは、(4)のホワイトハウスの広報資料です。講演内容の出来具合の差ではない。

 これはすでに総理の発言内容の概要が、国内で事前に報道されていたのに対し、中身が新鮮だったこともある。また、前回の「アロハ」や初めて聴く話、こういうときにモノをいう人名や軍艦名などの固有名詞の質・量などにおいて、地の利で相手が上だったのは、ハワイアンだから仕方がない。


 それに、ご覧いただいたとおりで、ホワイトハウスの議事録は、両首脳の講演を一本にまとめており、開始時刻は安倍総理が話し始めた午後12時、終了時刻はオバマ大統領が語り終えた12時31分で、一連の記録になっている。

 ちょっと注意して見ないと、二人が何処で入れ替わっているかも分かりづらい。ちゃんと共同声明の形式をとりつつ、タイトルはしっかり大統領が格上になっている。したたかだな。(拍手)と(笑)も入っている。


 安倍総理ステートメントは、私がまず読売新聞で読んだためか、国内では好意的に受け止められているらしい。さんざん茶化してきたものの、何はともあれ、この現場に足を運んだこと自体は、確かに重要な出来事だった。野党がいないせいか、のびのびと話してみえる。

 発言内容で目を引くのは、総理の「戦争の惨禍は、二度と、繰り返してはならない」という、現代の世界を断罪するかのような厳しい宣言である。主語がない。しかし、この続きを読んでも、あるいはホワイトハウスの英訳をみても、どうやら、そう主張しているのは「われわれ日本国民」らしい。


 あまり憲法をお好きではないと伺っているが、今のところ文面上は無事である日本国憲法の前文中にある、「政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し」から、借用したのではないだろうか。

 せっかくだから、「政府の行為によって」も付け加えてほしかったし、「たとえアメリカであろうと」と、嫌味の一つも入れると話が弾んだと思うのだが、時間の関係でシンプルに抑えている。あとは、有言実行。義務教育時代に、この季節、書かされましたね、書初めで。


 この式典の様子は新聞で読む前、朝ごはんに目玉焼きをいただきつつ7時のニュースで録画を観ながら、演説を聴いていたのだが、ちょっと驚いたのは、アンブローズ・ビアスの名前が出てきたことで、しかも彼の「詩」が引用されている。「勇者は、勇者を敬う」。

 かっこいいが、ビアスがどんな文脈で言ったか知らないけれど、まともな人ではない。私は大学生のころから、彼の「悪魔の辞典」を愛読している(というより、正確には時々パラパラです)。


 右の写真は、その古い本の表紙であるが、この角川文庫版から一例を挙げる。折角だから、今回のメインテーマであり、両首脳のスピーチにも出てくる単語について、ビアスがどのように解説しているか、ご紹介申し上げる。

ALLIANCE, 【同盟】 国際政治における二人の盗賊の団結。両者は互いに相手のポケットに自らの手を深くつっこんでいるので、単独では第三者から盗みを働けなくなっている。


 この原作は1906年に出版されているので、ちょうど日英同盟のころだ。それよりも、この文庫本の巻末にある年表と解説によれば、ビアスの職業人生において、彼が文筆家だったのはその後半である。

 職業は主にジャーナリスト、コラムニストとあり、詩人とは書いてない(ただし、詩集は出しているし、短編小説家としても評価されている由)。他方で、若いころは軍人だった。十代で南北戦争に従軍している。


 南北戦争は、アメリカではおそらく独立以来、最大の事件であり、第二次世界大戦よりも戦死者が多く、これがもう少し早めに起きていたら、ペリーも日本を脅迫しに来る余裕はなかったはずだ。

 「風と共に去りぬ」から、ボブ・ディランザ・バンドの音楽にまで影響も大きい。南北戦争の話は怖くて、約五年の米国駐在で一度も話題に出せなかったほど根深い。次に一例を挙げます。児島襄「太平洋戦争」より。


 真珠湾の3年半後、沖縄の激戦において日数と人命を費やし、ようやく首里城にたどりついたアメリカ軍の最高司令官バックナー中将は、ご先祖が南軍の軍人だったので、つい、城門に南軍連邦の旗を掲揚して誇った。

 しかし、旗下の自軍には北軍の子孫もいて反対意見が出たため、やむなく星条旗に換えている。ちなみに、そのすぐ後で、中将は日本軍の砲撃中に戦死した。なお、ビアス北軍だった。軍隊を嫌い、剣を捨ててペンをとった。


 昔の話と笑うなかれ。古今東西職業軍人世襲が多いのはご存じのとおり。この日のパール・ハーバーにも、南北いずれかの側で戦ったご先祖を持つ現役・退役の軍人や政治家が、きっといたはずだ。安直に出していい話題なのかどうか。

 さらに、このあとリンカーン大統領も出てくる。さすがに、南北戦争リンカーンの関わりを持ち出して、文句をつける人はおるまいが、リンカーンさん、共和党なのですけれど、いいのでしょうか。まあ、いいか、「未来志向」だし。こういうふうに、ビアスの影響を受けているのです。


 お二人とも、冒頭の論調は情緒的なものだが、今回のオバマさんのステートメントは、今年の広島来訪時のスピーチとも、今回の安倍さんとも、少し色合いが違う側面がある。前二つにはない宗教色がある。

 演説の最後をキリスト教的に締めくくっているのもその典型だが、(3)の和訳でいうと、「水兵たちは食堂で食事をとり、あるいはこぎれいな短パンとTシャツを着て教会に行く支度をしていました」という箇所がある。


 真珠湾攻撃は、現地の日曜日の朝を狙って行われた。意図的に。クリスチャンにとっては、教会に行く日である。そうでなくても、家族とのひと時を静かに過ごす安息日である。これも、憎まれた一因になったと、私は思っている。

 もちろん戦争だから、こちらの損害を最低限に抑え、最大限の戦果を挙げるためには、相手の戦意が低く、人数も少ない時機を選ぶのは当然のことだ。仮に、私が立案者や決定者であっても、矢張り、そうするだろう。


 何にせよ襲われた方は、たまったものではなかった。しかも、日曜日の朝8時前だから、まだ教会も開店準備中だったのではなかろうか。後述するが、大統領の話の中に出てくる人の中には、当日が非番だった兵士もいる。勤務開始の前だった人もいる。

 この日は教会の鐘も、いつものようには鳴らなかったはずだ。両国ともこの日の演説は、首脳お一人で考えたものではないと思うが、それにしても特にアメリカのは、よく言えば、自国のいろんな人たちへの配慮が行き届いており、厳しく申せば、かつての戦争色が濃く、その意味で日本に対して、意外と手厳しいと思う。続きます。







(おわり)








実家そばの田畑にて、初日の出
今年の元旦は、日曜日だった
(2017年1月1日撮影)










 Then I headed down the street,
 and somewhere far away a lonely bell was ringing.
 And it echoed through the canyon
 like the disappearing dreams of yesterday.


 それから俺は街に降りて行った
 どこか遠くから 鐘が一つ 
 さみしく その響きが伝わってくる
 鐘の音は 谷間に木霊した
 消えゆく昨日の夢のように

     ”Sunday Morning Coming Down”
  
      Kris Kristofferson / Johnny Cash









































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