おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

破壊の神  (第1015回)

 感想文に戻ります。破壊の神とは、ロボット会議で万丈目が人迷惑なロボットにつけた別称であるが、神でも近代兵器でもなく、オッチョの目撃談によれば蛸のような頭部は窒素の風船に過ぎなかった。ケンヂも怒っており、こんなものは俺たちの夢見た未来ではないという。

 そもそも彼が最初に夢見た身長50メートルのロボットは、その絵で分かるとおり、レ―ザー光線が武器だったのだ。よほどレーザーが好きだったらしい。生物兵器は山根発、オッチョ経由であとから付け加えられたものであった。悪のほうが余ほど現実的である。


 あのころレーザーの兵器はまだ実用化されていなかった。今もまだだと思うが、産軍共同体が何をやっているか分からんから安心はできぬ。「20世紀少年」は本格科学冒険漫画(映画)と銘打っているのだが、大ざっばにいうと20世紀では当時の科学技術の水準どおりであり、21世紀の近未来が舞台になってからコイズミのヴァーチャル・アトラクションや空飛ぶ円盤などの空想科学が入って来る。

 化学兵器はすでに枯葉剤やらサリンやらが使われてしまっている。ベトナムの社会経済を研究している学者から直接、聞いたことがある。枯葉剤の被害は同国の村ごとに大きく違う。米軍の部隊によって戦場によって、枯葉剤が使われた場所とそうでない場所で歴然とした違いがあり、子孫の代にいたるまでの深刻な被害の現場が、モザイクのように混在しているそうだ。おそろしい。

 ロボットは、敷島教授が主張した通りになり、20世紀末での二足歩行は無理で、やはりキャタピラ駆動になった。レーザー光線も吐かず、エボラ出血熱のごとき生物兵器を使った。原子力はマークだけで、ニセモノのモノマネだろう。それで幸いだったのだが、ともかく原作者が余りのレベルの低さに怒るのも無理はない。


 あと数時間で世紀の変わり目が来るというタイミングで、遠藤ケンヂは路上ライブに出た。映画もここは漫画にかなり忠実に映像化している。二人組(ににんぐみとは、読まない)の若者と、帰って来たカンナが登場する。子役が満面の笑顔で可愛いな。

 若者二人はケンヂの歌が「ひねくれている」けれども悪くないという、ひねくれた評価をしてくれて、さらにいつまでもこんなままで良いのか不安だか、「いい歳して、こんなことをやっているお兄さん」を見ていると気持ちが軽くなるという。ケンヂの歌は、このころから多くの優れた音楽と同様、精神安定の効能を発揮し始めた。

 そのうち嫌でもやらなくちゃならないことができると、漫画でも映画でもケンヂは二人に苦手な説教をして店じまい。バイクの二人にとって、嫌でもかどうかはともかく、取り急ぎ「やらなくちゃいけないこと」として、晴れ着をナンパするという結論を出したのが命取りになった。


 かつて、「世界血の大みそか」(第5集で七龍の店長が、カンナにそう云っている)に出現した巨大ロボットは、小学館のビルを壊しつつその中から出て来たと書いたような覚えがある。でも、これは間違いだな。改めて漫画を見ると、「ビッグコミックスピリッツ」の垂れ幕が下がっている小学館のビルは健在なのだ。あとで一部、壊されているようだが。

 さすがは現代の映画で、巨大ロボットがビルの谷間を左に折れ、バイクの二人と相対するに至る場面は臨場感と禍々しさにあふれている。どこを左折したのかはっきりしないが、映画も漫画も出没地点が、神保町の小学館付近にある再開発地域であることを実況で伝えている。


 バイクが停車した道は、中央分離帯がないので神保町辺りの蘘國通りではない。映画の設定も漫画と同じく白山通りだろう。ただし、バイクは漫画の場合、東側から来て左折しロボットに小学館近くで出くわしているのだが、漫画ではロボットが左折している。漫画と併せて考えると、小学館の近くで左に曲がって白山通りに出たはずだ。

 では、その前はどこにいたのだ、このウドの大木は。何日か前にカスミガセキの地下にいたのを、ケンヂとオッチョが見ている。その際なぜか窒素を抜いて、風船を凹ませている。さて、霞ヶ関から神保町に行くには、私の場合、都営地下鉄三田線を使えば乗り換えなしで行ける。

 だが、あの図体で地下鉄の線路を歩いていくのは無理だ。しかも仮に通行できたとしても、東京の鉄道は大晦日から元日にかけて、晴れ着が賑わう初日の出や初詣の客のため、越年で運転しているはずなので、どこかで交通事故か渋滞を起こし、遅刻してしまう。


 だから、漫画のケンヂが言っていたように、東京の地下には何の用だか分からない通路やら建設用のスペースやらがたくさんあって、そういう蟻の巣みたいな地下の迷路を通り、神田神保町まで人目に触れることなく移動したのだろう。

 例えば今でも永田町の地下には、多くのトンネルがある。国会の会期中は議員もすべての会合に出られないことが多く、このトンネルは代役で走り回る秘書たちのランニング・ルートになっている。「日本は人口の割に国会議員が少ない」という国会議員の説明に誤魔化されてはいけない。現実に秘書や外郭団体が、立法や行政のかなりの部分を代行しているのだ。

 ちなみに、このバイクの二人のように白山通りを南下しても、実は間もなく内堀に突き当たってしまう。しかも右に行こうと左に曲がろうと、東京の初詣では人気の明治神宮浅草寺の方向ではない。落ち着いて新年の御来光を拝める場所もなさそうだ。そもそも、バイクの二人乗りでナンパを達成しても、晴れ着を乗せる場所がないぞ。


 最後に、破壊の神(という翻訳語)が出てくる映画がある。前回ご登場いただいたマシュマロ・マンで名高い「ゴースト・バスターズ」で、新入社員のころ出来たばかりの有楽町マリオンに観に行った覚えがある。

 先日、「ブルース・ブラザーズ」を観ていたら終わりのクレジットに、「God Music by Elmer Bernstein」と出て来た。音楽監督よりも大きな扱いで、それにしても「神様の音楽」とは何なのかというと、劇中歌のタイトル。エルマー・バーンスタインは、同姓のエリックやレナードやカールと同様、ユダヤ系で、彼の仕事は映画音楽家だ。

 懐かしいところでは「大脱走」や「荒野の七人」など、「20世紀少年」にも出て来た映画の音楽を担当している。「ゴースト・バスターズ」の賑やかな音楽も彼の手によるものだ。あの皆んな大好きな「大脱走のマーチ」も彼の作曲だが、ミッチ・ミラー合唱団が歌うバージョンがある。何から脱走するのかよく分からないが、歌詞が抜群に面白い。




(この稿おわり)





Ms.Kanna
(2016年5月3日撮影)



コイズミ。上野子ども図書館前のラフカディオ・ハーンこと小泉八雲の像。
(2016年4月3日撮影)







 If there's something strange
 in your neighborhood,
 who you gonna call?

   ”Ghostbusters” Ray Parker Jr.


 もしもご近所に
 幽霊屋敷があったなら
 よろず承り〼








































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