映画の感想文と言っておいて、結局、漫画はこうなっているという話ばかりであります。これはある程度、仕方がないと開き直れば、この映画は(三作を一本として)、後半こそ改作があるが、前半の筋は殆ど漫画と同じであり、もちろん情報量は少ない。つい、何が抜けたかが気になる。
ケンヂが仲間を招集する場面も、先回のとおりオッチョの物語が短縮されただけではなく、他のメンバーも若干、経緯などが省かれている。ヨシツネとマルオが仕事を断念したシーンは出てくるのだが、彼らは家族とも別れないといけなかったのだ。ヨシツネの場合、いったん別居した妻子が戻って来そうというタイミングで(少しチョーさんの最期と似ている)、携帯メールに檄文が来た。
マルオとケロヨンは、ヨシツネと違って職場の同僚に見られる心配がないからか、ファックスで通知が来ている。これが結果的に、ユキジを呼び込む始末になった。集合場所の地図を置きっぱなしにして、奥さん経由で渡ってしまったのだ。
召集令状を受け取った漫画のマルオは、映画には出て来ないご子息のアツシくんに別れの挨拶をした。おまえは大きくなったと、マルオは自身の縮小コピーのごとき息子を諭している。子供のほうは、まだ5年生で小さいと反論するのだが、父親は譲らない。彼は4年生と5年生のとき、秘密基地で史上最凶の双子との戦いを繰り返していたのだ。本人は敗退しているが、それは問題ではない。
ユキジの場合、麻薬Gメンの成田勤務はやめて祖父の厳道館道場を再開したらしく、また、証拠はないけれど良い縁談もあったとのことだが、それらを断念して駆けつけている。モンちゃんは、後に深刻な事情が明らかになるが、少なくとも飛ばされた先のデュッセルドルフでの仕事は辞めて来たらしい。そういえば、彼は独身か?
問題は、漫画ではモンちゃんと一緒に何気なく入り込んできたフクベエ、漫画では三人の子を実家に預けて駆け付けてくれたというフクベエのさりげない闖入に、私は全く違和感を覚えず、あっさり作者に担がれた。ともあれこれで7人、戦う相手のご要望は野球チームよろしく9人そろえろとのことだった。これを一度に片付けるためには、2点タイムリーが必要である。しかし、ダブルプレーだった。
ところで、漫画では不鮮明の「集合場所の地図」が、映画ではけっこうしっかりと読める。ビデオの時代と違って、DVDはストップ・モーションにしても、鮮明に観えるのだな。ラブ&ピースとデジタル動画は、一時停止が容易である。
地図によると集合場所は、渋谷駅のそばだ。ときどき歩くところなので、どの辺りかまで分かります。宮益坂下の交差点近くの地下である。オッチョが出て来たJR渋谷駅のハチ公口は、目の前に例のスクランブル交差点がある。あれを真っすぐ渡るのは至難の業だ。ショーグンの「なり」では、みんな避けてくれるだろうが。
しかし渡らずに、その手前で右を見ると高架があって、「JR山手線」と書いてある。その下をくぐってすぐの道路反対側。地上は青山通りで、地下には渋谷で東急の田園都市線と相互乗り入れしているメトロの半蔵門線が走っている。地図にはマンホールの位置も明示されているが、「ゴールデンスランバー」によると、あのフタはものすごく重くて、中は真っ暗なんだ。
映画にちょこっと出てくる地下の列車の外装は、京王線に似ている。かつて作者は永福町だったか用賀だったか、京王の井の頭線沿線にお住まいだった時期があったそうなので、お乗りになったこともあろう。私も吉祥寺と明大前の駅を何年かずつ使っていたので、渋谷の行き返りによく乗った。
以前、話題にした世田谷文学館の展示会にいらした方は、年譜でご覧になったと思うが、作者は理由不明であるけれども、幼稚園に行っておらず、おばあちゃん子として育てられたらしい。マンガばっかり描いていたらしい。幼稚園に行かず、おばあちゃんの世話になったといえば少女カンナと同じ境遇である。元気過ぎる人に育つのだろうか。
なお、ケンヂが新・秘密基地の場所として渋谷を選んだ理由は、漫画のほうが分かりやすくて、レナちゃんが渋谷の歓楽街勤務であり、彼女から情報収集すべく彼はピンクのウサギという、渋谷では地味な格好で働いていたのだ。ピンクは業界色であろう。ウサギは繁殖力が強く、プレイボーイ誌の兎印は、その飽くなき努力とパワーに敬意を表している。手塚治虫「ブッダ」の冒頭にも出てくる。
(この稿おわり)
いずれも近くの交差点そばにて。赤く咲くのはケシの花。
(2016年4月3日撮影)
昨日マー坊 今日トミー 明日はジョージか ケン坊か
恋は はかなく 過ぎて行き 夢は夜ひらく
「圭子の夢は夜ひらく」 藤圭子 (マー坊よりはケン坊のほうが)
2012年2月28日撮影。再掲。合掌。