おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

ロンドンのアップルとマック  (第974回)

 私にとっての「マック」は、アップルのコンピュータが出るまで別の意味を有しておりました。最初に覚えた英語”mac”は、英英辞典にも正式に載っている「マッキントッシュ」の略語で、レインコートの別名である。ビートルズの「ペニーレイン」に、大雨の中でもマックを着ない銀行員というのが出てきて、中学生のころから知っていたのだ。これはメーカー名から採ったもので、いまもある上着の会社です。

 次がアメリカで覚えたハンバーガー屋の略語である。もしかしたら、その前から日本で使っていたかもしれない。今どきの日本人の若者はマクドと言うらしいが。そういえば経営は大丈夫なのであろうか。そのあとがマックライトの出番。前にも書いたような覚えがあるが”Mc”はイギリス系・アイルランド系の人名に多く、出てこいマッカーサースコットランドの家系で、ポール・マッカートニーは多分アイリッシュ


 漫画「20世紀少年」に出てくるロックの話題はポジティブなものが多くて、暗い話といえばオーヴァードウスによる夭折くらいだろう。しかし、元来、飛びぬけて騒々しい音楽だから、他にも事件や事故が多い。先日の話題に出したローリング・ストーン誌のビデオには、その代表的な出来事になってしまった米国オルタモントのコンサートにおける死亡事故(事件か?)のシーンも一部出てくる。

 そのときステージに立っていたのは、出演者の筆頭かつ主催者だったローリング・ストーンズで、時はウッドストックの夏が終わった1969年の秋だった。オルタモントは、サンフランシスコの対岸にあり、私が住んでいたころ全米で最強の球団だったアスレチックスを擁するオークランドに近い。ゴールデンゲートの橋を渡って、野球を観に行ったなあ。


 騒々しさでいえば、パンクの客の興奮なんて暴動に近かった。それに比べれば、あの日のオルタモントは、映像で見る限りまだ大人しいほうで、ただしクスリと酒が入った連中が混じった。当時のアメリカでドラッグが蔓延した一因は、まず間違いなくベトナムの帰還兵にあるだろう。近代の戦争は高位の職業軍人が安全な場所にいて、最前線に素人が送られるため、しばしば覚醒剤系が使われるらしい。
 
 旧日本軍の場合はヒロポンで、戦後これが民間に流れた。中毒患者だった坂口安吾は、全裸で自宅内を走り回って奇声を挙げていたという話をどこかで読んだことがある。ウッドストックのときは、どうやらダウナーのマリファナが主流だったのかもしれない。多くの観客がうっとりしている。


 ストーンズと麻薬の組み合わせが大人しく済むとも思えず、警備を入れたところまでは良かったが、選んだのがヘルズ・エンジェルスだった。ご存じない方は、外見だけでも類似例をご紹介すると、聖母キリコにワクチンをもらったバイク野郎たちのような連中である。もっとタチが悪いだろう。どちらが暴徒か分からないような騒ぎになって、観客に人死にが出てしまった。

 映画の「ウッドストック」と同じくマーチン・スコセッシが監督したジョージ・ハリスンの伝記映画「リヴィング・イン・ザ・マテリアル・ワールド」にも、このヘルズ・エンジェルスにまつわる別の逸話が登場する。ロンドンにあるビートルズが作ったアップル社のビルに居ついてしまったらしいのだ。やっぱり、さんふらんしすこの次はロンドンであった。

 事の発端はジョージ・ハリスンの親切なのか軽はずみなのか分からないが、アップルに遊びにおいでとアメリカで連中に声をかけたところ、半年後に本当に来てしまったらしい。証言者はエンジニアで現場を見ており、無銭飲食に無銭宿泊で関係者も往生した。結局は招待者のジョージが説得してお引き取り願ったらしい。


 メジャー・デビュー前後のビートルズを「発見」したのは、ごく若い娘たちと、同性愛のマネージャー志望者だった。コンサート会場の年齢・性別は女子高みたいな感じで、さすがに暴動シーンの映像や記録は見たことがないが、そのかわり叫ぶ。メンバーは自分たちの演奏が聞こえなかったというのも信じ難いが、警備員がピストルから弾丸を抜いて耳栓にしていたそうだから本当にそうだったのだろう。

 記者から「あれではまるで宗教ではないか」と言われたジョン・レノンは、「うちのファンは、サッカーよりはおとなしい」と言い返している。どうかな。ちなみに、上記のスコセッシの映画に、アストリッド・キルヒヘア(コンチが見上げていたジャケット写真を撮った人)が撮影した失意のジョンとジョージのモノクロームが出てくる。私が見てきた中で、ビートルズの写真では最高傑作だ。


 アップルという会社は、あの変な観覧車ができる前にロンドンへ行ったときに探したのだが、見つからなかった。正確な住所も知らなかったし、携帯端末も無い時代だったから諦めました。このアップル社が、スティーブ・ジョブズのアップル社を訴えた話は、ずっと昔に書いた覚えがある。

 私がビートルズのレコードを聴き始めた1970年代初頭には、LPもシングルも全部にリンゴのマークが印刷されていたから、ジョブズの会社の誰一人、知らなかったということはあるまい。推測ながら、まさか訴えられるとは思わなかったのではないか。しかし、有名になってからのビートルズに近寄って来たのは、若い娘たちよりも金の亡者ばかりだったとメンバーも関係者も語っている。

 
 訴訟の話を最初に聞いたときは、リンゴの実なんてどこにもあるだろうと不思議に思ったものだ。しかし、別件で訴えられそうになった人に聞いたところでは、そういう一般的な抽象性の高いものほど危ないとか。法律には詳しくないが、つまり「遠藤酒店」なら全国に幾つあっても大丈夫そうだが、例えば「おじさんショップ」だと危険度が高いというようなことだろうな。たぶん。なお、コート屋さんのマッキントッシュは人名です。

 リンゴ合戦はどうやら金銭解決したようだけれども、それぞれを支持し金を払う世代に相当のずれがありそうなので、法的にはともかく何とも後味が悪かった。もう忘れよう。まともな話題で終わります。ロンドンのアップル社が最初にプロモートした作品の中に、マッカートニー氏の肝いりでデビューしたメアリ・ホプキンの「悲しき天使」というシングル曲があってヒットした。

 当時は小学生だったが、我が国でも流行ったのを覚えている。日本語の歌詞まで付いて、森山母が歌っていたなあ。英語の歌詞に友達は出てくるが(無理して韻を踏んだ感じ)、天使は出て来ない。ちなみに、ヘルズ・エンジェルスは、天使の町ロス・アンジェルスの反対語みたいなものだ。されど地獄にも天使はいるらしい(元天使か)。悪魔系。




(この稿おわり)





近所にはリンゴの木が無いため、キンカンで代用。
(2016年1月2日撮影)







 Those were the days, my friend.
 We thought they'd never end.

    ”Those Were The Days”  Mary Hopkin












































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