おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

Well, shake it up baby now... (20世紀少年 第700回)

 第21集の65ページ目、蝶々君の呼びかけを無視してケンヂが歌っている「シェケナべイベ〜」という新曲候補は、本人の酷評によると「だめだ。こりゃまたパクリだ。」ということになっている。しかし、そもそもあちらこちらで歌っている代表曲の「ボブ・レノン」も自分でパクリだと言っていたではないか。そのセリフもそのまま録音するところが、この人らしくて良い。

 私にはこの曲のどこがボブ・ディランジョン・レノン剽窃なのか分からない。確かに、いかにもこの二人の態度からは、この俺の邪魔をするなという傲然たる雰囲気が漂ってはいるけれども。今日は700回記念。おそらく今回と次回が本格的にビートルズのことを書く最後の機会になるだろう。このあと彼らに関する題材が漫画に出てこないので。

 
 漫画ではメロディーを知りようがないが、他方で「シェケナべイベ〜」という歌詞は英語で書くと掲題のように”Well, shake it up baby now”となるはずで、確かにパクリだ。”Twist and Shout”というロック・ソングの始まりの部分である。この曲を作詞作曲した「昔の人」が誰なのか私は知らないが、これをビートルズがカバーしたのは知っている。ジョン・レノンが歌った。

 ハー・マジェスティーエリザベス女王陛下の前でも歌った。ナガシマ風に言えば天覧演奏である。これは映像が残っているので、ご覧になった方も多かろう。ジョンは歌う前か歌った後に何か冗談を言わずには気が済まない男で、この日は王族を前に「最後の曲についてお願いです。安い席のお客は手拍子を頼む。それ以外の席の方々におかれては宝石を鳴らしてくれい」とのたまい、ちょこっと舌を出して歌い始めている。


 私がこれまで読んだ無数のビートルズに関する書籍や記事のうち、群を抜いて優れているのが”The COMPLETE BEATLES Recording sessions”というマーク・ルイソーンさんという著者の本。「ビートルズ レコーディング セッション」という題で15年ほど前に邦訳・出版されている。中身は文字どおり彼らのレコーディング・セッションの記録であり、主な情報源はアビーロードのスタジオに残された録音テープと、その録音に参加した関係者の証言である。

 特に後者の関係者の昔話は、プロデューサーのジョージ・マーチンはもちろん、ストリングスやトランペットなどで参加したスタジオ・ミュージシャンから録音の技師や雑用係に至るまで多種多様である。そのほとんどはメンバーと同世代か年上だから、時の経過も考えにいれると今後これと同質の関係者発言を収集するのは至難だろう。


 毎年のように出るビートルズ関係の本や雑誌の記事は、この本からの引用が実に多い。中には無断転用もあり、ブログほかネット情報に至っては殆どが著作権法違反だと思うが、それがこの本の価値を何より物語っていると思うし、今から私もその仲間入りをするので、細かいことは言わない。本の中身は記録として実に細かい。まず、何年何月何日何曜日の何時から何時まで、どのスタジオでどの曲が何回録音されたかが克明に記載されている。

 それに続く各日の本文では、テープに残された音楽やメンバーの肉声、関係者の感想や自慢話がふんだんに残されている。例えば「ペニー・レイン」の間奏で高らかに鳴るソプラノ・トランペットは、あまりに澄んだ高音であるため録音後に回転速度を上げて再録したのではないかと噂されたそうだが、演奏したおじさんは今でも全く同じように吹けますと威張っていて楽しい。


 ビートルズのアルバムやシングルの発表のペースというのは尋常ではなく、特に前期の発売スピードというのは並大抵のものではない。これは結果的にこうなったのではなく、たぶん契約によるものだろう。例えば彼らのファースト・アルバムはイギリスのチャートで半年以上、首位の座を譲らなかった。双葉山の連勝記録には及ばないが凄い。31週目にトップから転落したのだが、交代で1位になったのは彼らのセカンド・アルバムであった。

 売り上げだけのことを考えれば、そんなタイミングで次を出すのはもったいない。こうなった原因は、早いとこ売り続けないと人気が落ちるだろうと考えたか、契約でそうせざるを得なかったかのいずれかだろう。レコードの発売ばかりではなく、公演旅行もテレビやラジオの出演も頻繁にあり、その合間を縫って作詞作曲や録音をしていたようだ。EMI社はファースト・アルバムの録音にわずか1日しかくれなかったらしい。その様子を次回、書きます。



(この稿おわり)




その本です。写真はおそらく1968年ごろ。原っぱの秘密基地と同時期。































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