第22集第7話のタイトル「敵に渡すな」は、もちろん鉄人28号の主題歌の歌詞、「敵に渡すな大事なリモコン」から採られたものです。ともだち府に登庁した高須幹事長は、もう外は暗い時間だというのに深くお辞儀をする部下たちから「おはようございます!」と挨拶を受けている。ここは芸能界か。百鬼夜行、似たようなものか。
高須は残業ご苦労様と返事をしている。部下はみんな友民党独特の作り笑いを浮かべ、おじさんの一人が「いつも、さわやかな朝のような気持ちで勤めさせていただいております」と述べており、それだから「おはようございます」の挨拶を強制されているのだろうか。高須は「私たちは夢に向かって前進していること」を忘れるなと、浜あゆの歌詞のようなことを言っている(ファンに叱られるかな)。
高須は急用があって来たらしい。早速「で、どこ?」と訊いている。彼女が案内された小部屋には元気のない青年が一人、肩を落とし首を垂れて座っている。若者は高須幹事長に、「で、例のモノは?」と訊かれ、「で、ですから」と口を切っているので、すでに速報済みであり、それに対し高須が怒っていることを知っているから縮こまっているのだろう。顔色も悪い。
彼は例のモノをお渡ししましたと言う。誰にと尋ねる高須だが、青年は黙っている。もう一度同じ質問を受けて、男は「ですから、予定が変更になったんじゃ...」と弁明を始めている。そんな話を知らない高須は、任務をちゃんと遂行できない人は”絶交”だと少し嬉しそうにしている。任務の失敗にもかかわらず極刑が好きらしい。嫌な性格。
男も簡単には引き下がらず、相手は高須先生が教えてくれた合い言葉をちゃんと交わしてきたという。「人呼んで」と高須先生、「遊星仮面」とスパイ男。あのアニメのオープニングは確かに人呼んで遊星仮面なんだが、自己紹介において「人呼んで」と言うだろうか。正直言って、この一言しか覚えていない印象の薄い番組であった。昔は惑星のことを遊星とも言ったのだ。両者併せてなんとなく誘惑という言葉が思い浮かぶ。
高須が「どんな人?」と尋ねる場面の次からが興味深い。ひさしぶりに”ともだち”がお面もマスクもなしの素顔で出てくる。読者には後頭部しか見えないが、会った男によると「ふつうの感じの人」だったらしい。フクベエと類似の顔面なら、まあ普通の感じと言って差し支えなかろう。高須は”ともだち”が現在、素顔でいることを知っているようにも思える。
当然といえば当然で、世界を終わらせると宣言した男が、あの覆面姿で街中をウロウロ歩いていたら袋叩きにされて監禁されるに決まっている(と思う)。それに、1997年の”ともだち”は信者の前でしばしば素顔だったし、2015年のお年賀では春さんが”ともだち”の顔を見てスケッチしているのだ。結構、知られた顔であるはずだ。
このためだろう、リモコンを入手した男とも夜にコソコソ会っている。リモコンは基本的にレバーで操作すると教わって、”ともだち”は実際に動かしながら「なるほど。これいいね。」と敷島教授の作品に高い評価を与えた。そして「その時、その人、歌を歌ったんです」と報告が続く。「敵に渡すな、大事な...」という歌詞。これで、ふつうの感じの人か?
「...大事なリモコン」と高須が続きを引き取って歌い、泥棒男は同じ歌だと確認した。この歌を知っているといっても、高須が私や”ともだち”と同世代とは思えないので、彼女は”ともだち”が鉄人28号のファンであることと、そのアニメの主題歌の歌詞を知っていたらしい。「夜の街にガオー」は、すでに1997年に敷島教授の娘がパパイヤ天国でケンヂに聴かせている。
そもそもケンヂが”よげんの書”に書いた原子りょく巨大ロボットからして、鉄人28号の真似っこに過ぎないと仲間たちに酷評されていたのだった。高須が恍惚とした表情になり、「あの方が自ら、リモコンを手にされた」と感動している。しかし、待った。リモコンを渡した男は「時間と場所の変更の連絡」があったと説明している。
二人の会話からすると、本来の計画は別の時間と別の場所で、”ともだち”ではなく他の誰か、たぶん司令塔の高須が手に入れるべく、スパイを潜入させたと考えるのが自然であろう。例によってヨシツネやユキジの行動は筒抜けで、ロボットのことも情報がとっくに漏れていたのだ。
高須が、”ともだち”がリモコンを手に取ったと聞いて驚き喜んでいるということは、たぶん彼女は自分で入手して彼に渡す予定だったのだろう。ところが高須は気にしていないようだが、”ともだち”は単独行動で高須の指揮命令系統に介入し、機密情報を横取りしていると言って良い。どうやら高須もお釈迦様の手のひらの上で踊っているだけらしい。悪になるのは大変だ。
(この稿おわり)
あなたと私の合言葉... (2013年6月7日撮影)
あたしのリモコンはどこ?
アコギのイントロをいま
あたしはひたすらにただ
求め続けるのに
椎名林檎 「リモートコントローラー」
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