おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

It's Only Rock 'N' Roll

 ストーンズのライブに行ってきた。3月4日の東京ドームである。実によかった。今年は春から縁起が良い。昨年ポール・マッカートニーが来日したときは全く関心が湧かなかったのに、ローリング・ストーンズが来ると聞いては話が別だ。

 連中はまだ70歳前後だが、私はもう53歳である。生来病弱の身の上、ここで聴き逃すと取り返しのつかないおそれがある。幸いチケットは抽選で手に入った。席はちょうど球場の真ん中あたりで、センター・フィルダーの前進守備位置あたりだろうか。


 ステージはバック・ネット裏に設置されている。ネット裏で野球を観戦したことがある人なら、中堅手がどのくらいの大きさに見えるか想像がつくだろう。幸いステージの両脇と上部には巨大なスクリーンがあり、これで位置と衣装を確認してからステージを観れば何が起きているかは概ね分かる。
 
 着席した途端に、これは不運だなと感じた。アリーナの座席は(高価なのにパイプ椅子です)、前の列と半分ずつずらして置かれているので正面のステージは見える。だが目の前の大男二人が、ちょうど両脇のスクリーンの前に壁のごとく立ちはだかっており、しかもボサボサの長髪だ。


 こちらは余ほど上半身を左右いずれかに倒さないとディスプレイが見えない。まあしかし、このくらいのことで凹んでいてはロックを聴く資格はないのだ。とにかく腰を下ろす。会場は見渡す限り満員盛況である。

 アリーナには天井に届くほど高い二本の鉄塔が立っていて、それぞれ照明係が4名、命綱を張って登っていく。そろそろ開演の時間である。前回の来日公演では長い前座の演奏があったと聞いていたので、しばらくは若いバンドでも聴くんだろうなと思っていたのだが...。


 音楽はキース・リチャーズが奏でる「Start Me Up」のファンファーレで始まった。満場全員起立である。私はここに他人の背中を見に来たのではない。腰痛持ちの身ではあるが、やむなく2時間も立ちっぱなしと相成った。

 ただし捨てる神あれば拾う神あり、前列の巨人二人は単に座高が高いだけであった。以下、曲目は気の早い人たちがセットリストをネットにアップしているので、それを参考にさせてもらう。


 それ以外は私の記憶のみを頼りに書くので、少しは間違いもあるだろうが構うものか。2曲目は知らなかった。ネット情報によれば「You Got Me Rocking」、1994年の作品とある。

 私が持っているストーンズのLPレコードは60年代の後半から80年代の序盤まで。その前後の膨大な作品群はヒット曲くらいしか知らないので仕方がない。90年代となるとストーンズの歴史では、さしずめ近代史みたいなものか。アップで映し出されたロン・ウッドの左の指にボトル・ネックが嵌められている。


 ミック・ジャガーは全身黒づくめの軽装で動き回る。彼の「コンニチハ」という挨拶に続いて、3曲目は「It's Only Rock "N" Roll」。私が一番好きなアルバムのテーマ・ソングだ。

 お次はスクリーンにサイコロがたくさん転がって「Tumbling Dice」が始まる。何十年ぶりに聴くか。もう、このあたりで今日は本当に来てよかったと実感する。彼らは2曲歌ってはちょっと休むことにしているらしい。

 
 ミックが日本語で「東京ドームで、27回目のショウだ」と語り、白と青の素朴なジャケットを着たキースがアコースティックを弾き始める。ずっと前にも書いた。ストーンズのイントロはとにかくチャーミングである。どの曲も最初の音で歓声が沸き上がる。

 十代のころから好きだった「Angie」を聴いていたら不覚にも涙が一粒こぼれた。ミックはアンジーの一部で高音が出ず、ほんの少し編曲して部分的に音程を下げたメロディーに変えている。全体のキーを下げればいいと思うのはカラオケしか歌えないど素人の発想で、プロは一音上げ下げしただけで音程が合わず歌えなくなることがあると聞く。


 6曲目は歌手いわく「シンキョク」の「Doom And Gloom」。これが終わってからミック・テイラーが登場して拍手喝采を浴びた。山羊の頭のスープより「Silver Train」。軽快なギターで始まる。

 ネクタイ姿のテイラーは太っていて映画「指輪物語」のサム・ギャムジーみたいになっているがブルース・ギターの腕はそのままだ。スパイダーさんが憧れたキーズ・リチャーズとミック・テイラーの絡み、本物が目の前にある。ミックもハモニカで合わせる。


 次。ミック・ジャガーの「みんなでこの曲、歌うか?」という挑発に乗せられて、お客は「Honky Tonk Women」を合唱することになった。スクリーンはアニメに切り替わり、キング・コングのパロディーで、コングの替わりに殆ど洋服を着ていない娘が高層ビルを登っていく。

 戦闘機で彼女を攻撃するパイロットは、ストーンズベスト・アルバムのジャケットを飾った類人猿の顔をあしらっている。中国公演ではこの曲を演奏禁止にしたらしい。愚かな。お互い日本に生まれて良かったね。

 ゲスト・ミュージシャンのキーボード奏者がホンキー・トンク・ピアノを弾いてみせる。そういえば、ニッキー・ホプキンスはもういない。ブライアン・ジョーンズは27歳で死んだ。このあとでバンド・メンバーの紹介があった。

 
 バッキング・コーラスのリサ・フィッシャーはグラミー賞を得ている。「オメデトウ」とミックが語り掛ける。名前は存じ上げないが、テナー・サックスも名のある人らしく一際、拍手が大きい。そして一番の喝采を浴びたのはミックが「On the drums...」と言いながら振り返った男だ。

 チャーリー・ワッツは赤のTシャツ姿で舞台の前方に出てきた。その腕を取って老人のエスコートのフリをするミックを笑って振り切り、ドラマーは丁寧にお辞儀をして持ち場に戻った。

 この日、彼の演奏中の姿は何度もスクリーンに大写しになった。どんなギタリストが前に立って好き放題しても、この男がいるかぎり転がる石は回転をやめない。最後に紹介されたキースが、そのまま中央に残り彼の時間が来た。長くなったので以下、次回。





(この稿おわり)




   





I said I know it's only rock 'n roll but I like it, like it, yes, I do.

        ”It's Only Rock 'N' Roll”  The Rolling Stones














































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