おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

悪い奴 (20世紀少年 第844回)

 
 嬉しいことに下巻も巻頭カラーだ。第1話は「ゲームのルール」。始まりの5ページ目上段に私の好きな青い空と白い雲。そのうち何とかなるだろうの歌詞にも出てくる。最初の吹き出しに「万引き?」とあるのは、多分オッチョ少年の声。おお、びっくりしたよと自慢げに話すのはマルオ少年だろう。

 この二人にケロヨンを加えて、ちょっとかしいだ三角形の配置で歩いていく三人は、この3ページあとで半世紀後も同じように隊列を組んで歩いている。マルオ少年はこの中で唯一、捕り物帳を実見したとあって身振りも交えつつババがとった行動について解説中である。

 
 「ババァって、そんなに動けるんだ」と感心しているのはケロヨンで、どうせ耳も聴こえていないってと店先でババを小馬鹿にしたばかりだから見直しているのだ。先頭を行くオッチョは「で、誰よ。その悪いやつ?」と話の先を促している。
 
 だからあの、お面をかぶっている奴だよとマルオが言う。少年たちは日常お面の子に余り関心がなかったらしい。ケロヨン「お面かぶっている奴って、なんて言ったっけ?」、オッチョ「サダキヨだっけ?」、マルオは首をかしげて「サダキヨって?」という調子。お面の子供なんて相手にしていないことが分かる。健全。


 夏の少年たちはいつもの原っぱに向かって歩いていたのだった。オッチョが「よお」と声をかけたのは先着隊のケンヂで「おう」と返してきた。隣でヨシツネが基地をのぞき込んでいる。様子が変だ。

 「どうした?」とオッチョ。「間違いないって」とヨシツネはケンヂとの会話の続きを述べたようで、さらに「誰かが秘密基地、使ってたみたい」と付け加えた。「えー」と一斉に不審そうな声を挙げるメンバーたち。コミックス単行本の最後にも使われている絵だ。


 ヨシツネの表情からして「誰か」というのが、仲間ではない誰かだというのをみんな瞬時に理解している。しかしこの秘密基地の絵を観る限り、どうみても基地は秘密どころか無茶苦茶、目立つ。けっこう大きいし高いし、迷彩もほどこされているとは言い難い。これでは双子やお面にバレても仕方がないような気がする。

 でも勝手に使うとはけしからぬ。まずは仲間になるのがゲームのルール。無断侵入した悪い奴は、ここのルールが分かっていないのだ。ヨシツネはなぜ誰かが使ったと判断したのかという根拠を示していないが、出入り口の外から見ただけで分かる痕跡があるらしい。


 勝手に基地に入った奴といえば、1969年なら第14集に出てきたようにフクベエとサダキヨであるが、この場面はババの犯人捜しの直後のことだから1970年なので別件である。サダキヨがカンナに伝えたところによれば、カツマタ君が反陽子ばくだんのリモコンを隠しに入ったのだ。地面を掘ったか。マンガやラジオを動かしたか。

 次のページは再び青い空白い雲に「万引き?」から始まり、マルオがガキのころの思い出を語っている。彼いわく「犯人はお面をかぶったサダキヨさ」ということだ。お面大王に会ったばかりだから、子供の頃と比べて更に、お面と言えばサダキヨという印象が強くなった。

 
 しかし先頭を歩くオッチョは、お面をかぶっていたなら「中身」はサダキヨかどうかわからないと異論を立てる。戦闘状態に入っていない時のオッチョはスナフキンのようにクールである。ムーミンもハイジもガンバも、私は原作も読みアニメも観た。どれも原作が持つ陰影がアニメには殆どない。スポンサーのご意向か。

 正論を突き付けられて、そりゃそうだけどとマルオは苦笑い。左手に掲げている花束を贈る相手を疑っていたのだから体裁が悪い。「お見舞いに来といて、おまえ犯人だったのかって聞くのもなあ」とケロヨンも珍しく遠慮気味である。訊いてほしかった。カンナも聞き漏らしている。


 目的地の病院に着いた。するとその駐車場でヨシツネが近ごろ珍しいガラパゴス携帯を持って立っている。「マルオ」と彼が声を出す。ヨシツネのド近眼では手前にいるオッチョの長身よりも、マルオの横幅のほうが認識しやすいかったらしい。お前らに連絡しようとしていたんだと彼はいう。

 ヨシツネのニュースその1。受付によるとサダキヨの病態が急変してICUに入った由。ニュースその2。国連軍の連中が病院内にドカドカ入っていった。三人一斉にうなづき、サダキヨと関係があるに違いないとの見解を示す。お見舞いどころではなさそうだ。


 お面の子がババに捕まったとき、しばらく前までマルオとヨシツネと一緒にいたオッチョ少年は、なぜか現場に居合わせなかった。ケンヂも寄ってきたのに、オッチョはあのとき何処で何をしていたのか不明である。

 このシーンでもオッチョが何を知っているのか、何を考えているのか分からない。ここに至るまでお面の男と死んだはずのフクベエの顔に散々悩まされてきたオッチョなのに口数が少なすぎる。ケンヂとはまた違う方法で、オッチョもまたその「悪い奴」の正体に近づきつつあるような感じがする。


 その子はその子なりに、秘密基地の仲間と遊びたかったのだろう。リモコンはわざと見つかるように乱暴に隠して、何だこれはと騒いでほしかったに違いないな。自分にも似たような出来事があったから想像がつく。そんなに簡単に友だちを作れないときだってあるのだ。

 自ら語ったとおりサダキヨが仲間になりたかったのはケンヂ達であり、後年その願いは最後にようやく叶えられた。子供時代のケンヂの野放図とも言うべき人懐こさは、ドンキーやフクベエに対する彼の大らかな態度にも現れている。カツマタ君はケンヂに見放されたような気分になったのかもしれない。憎さ百倍となったか。



(この稿おわり)









たぶんコサギ。私の好きな鳥。
(2014年元日撮影)






 I don't expect you to understand
 after you've caused so much pain.
 But then again, you're not to blame.
 You're just a human, a victim of the insane.

            ”Isolation” John Lennon


 分かってくれとは言わない
 そんな辛い目に遭ったとなっては
 でも、もう一度言う おまえのせいではない
 おまえは狂気の犠牲になった一人の人間にすぎぬ

            「孤独」 ジョン・レノン















































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