おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

風船爆弾 (20世紀少年 第825回)

 元日早々の実家の朝刊、しかも第一面に「火星移住計画」の記事が出ていて、オランダのNPOが企画、20万人が応募、千人が候補になり日本人も10人含まれている由。これを読んで何となく不愉快になった。特に理由もなく嫌な気分になるときは、日ごろ意識していない自分の本心を窺い知る好機であります。そこで理由を考えてみた。

 (1)うらやましい。(2)「カプリコン1」と”ともだち”の嘘を思い出した。(3)貧困と犯罪が蔓延するこのご時世に、そんな手間暇とお金をかける余裕があるなら、他に為すべきことがあるんではないかい。

 (4)片道切符で地球には戻らないという前提だそうで、応募者の中には意識的にか潜在的にか、いずれにせよ相当の希死念慮者がいるのではないか。(5)昔の職場の関係で、明治から昭和にかけて中南米に移住した日本人の多くが直面した現地での過酷な暮らしぶりを直接間接聞いているので、夢のある話とは思えない。


 さて。2001年9月11日にアメリカで同時多発テロが起きたとき、米国本土が初めて敵襲に遭ったと報道されていたのを覚えている。真珠湾は本土ではないらしい。それに、初めてでもない。太平洋戦争時の風船爆弾は、私が子供のころ一発だけアメリカに落ちたと聞いた記憶があるが、どうやらもう少し戦果はあったらしい。

 それにしても紙製品で駆動装置もない。文字どおり刀折れ矢尽きた日本の学徒動員による苦し紛れの戦法であるが、風に乗せ遥か太平洋を越えて攻めるとは、正気なら構想としては雄大である。ちなみに私が「一発だけ」と聞いた爆弾は、オレゴン州に落ちたとのことだった。


 オレゴンの州都はポートランドという緑豊かな海辺の町だ。私はシアトルとポートランドを旅したことがある。ポートランドからロサンゼルスまでは夜行列車に乗った。車窓からの眺めはまさに深山幽谷、秘密の湖ありセコイアの大森林あり、海外では最高の鉄道旅行であった。

 どこから風船を飛ばしたのか知らなかったが、先日、福島の勿来で関所跡から駅まで歩いていたら、偶然通りかかった街角に当時の風船爆弾の製造および打ち上げ(?)を行っていた基地の跡があったのには驚いた。そういえば津波も瓦礫もアメリカ西海岸に届いたのだった...。もしも地球の自転が逆なら、きっと黄砂もPM2.5も来ないだろうに。


 おそらくケンヂと万丈目が爆弾の設置場所の候補に思い至ったのと同じころ、万博会場では国連軍が爆発物の捜索を行っている。ヴァーチャル・アトラクションにいるケンヂから報告が届いたとは思えず、自分たちの判断で万博会場が怪しいとにらんだのだろう。”ともだち”の建築物だし、しんよげんの書にも出てくるのだから当然の疑惑である。

 不審物はアメリカ館にもオーストラリア館にもメキシコ館にもなかった。なぜか環太平洋の国ばかりだな。どうした、TPP交渉。ちなみに大阪万博には中国館がなかった。当時はまだ国交がなかったからである。さて、もっとも怪しい太陽の塔は、内部が暗くて捜索隊のA班が難儀している。


 隊員の一人が懐中電灯に照らし出されたものを見て情けない悲鳴を上げている。「また子供の人形ですよ」と言っているから、複数の人形があったのだ。第21集には、塔と人形のシーンが2か所でてきた。

 一つ目は蝶野刑事がケンヂに伝えた、万博開幕式の日に塔の内部で見た「おぞましいもの」の思い出話。もう一つは”ともだち”が一人でケンヂに「あそびましょー」と語り掛けている場面だった。


 蝶野刑事が目撃したのは、ここで国連軍が見つけた人形とよく似ていて、「笑いながらかくれんぼしてた」と刑事は言う。確かに「キャキャ」という笑い声がどちらのシーンにも響いているのだが、かくれんぼ中に笑ったりしたらあっという間に見つかってしまうのであり、これはむしろ鬼ごっこではないのだろうか? 

 かくれんぼの名人といえばコンチだが、彼は十数年間も隠れていたのに妙な歌を録音し放送したばかりに、あっという間に見つかってしまった。少なくとももう一つある人形は、第21集で”ともだち”が走馬灯で楽しんでいる傍らにある走っているかのような子供の人形だろうか。走馬灯の子供たちも走っているようだが、かくれんぼは基本的にそんなに走らない。


 まあ、いい。この子供の顔は見慣れないが誰かに似せてあるのだろうか。ケンヂの「マヌケヅラ」ほか秘密基地の仲間ではなさそうだ。それにケンヂは「遊びましょ」と呼ばれているのだから、まだ遊びに参加していない立場のはずである。

 人形の顔はケンヂと遊びたかった子供の誰かなのだろう。誰なのか。第21集時点の”ともだち”か? それならカツマタ君か。しかし、ニセ太陽の塔はタイ漁船から泳いできたショーグンと角田氏が2014年の段階ですでに目にしている。

 角田氏は驚いていないから、かなり前から立っていたはずだ。フクベエご存命のころである。そして、フクベエが少年時代から最後まで執着していた「ばんぱく」を、すり替わった”ともだち”がどこまで大切に思っていたのかは不明である。


 それに、万博の開幕式の日までに、マネのマネのほうの”ともだち”が、ニセ太陽の塔の内部にあのような人形や回り灯籠の設備を整える余裕があったかどうかというと、時間的にも立場上も苦しい感じがする。

 それにケンヂに強い関心を抱き続けていたのもフクベエのほうであり、それはどちらかというと片思いみたいな感情であって、カツマタ君の怨念のごときものとは性格を異にする。ちょっと結論らしい結論が出そうもないので問題を棚上げにします。

 A班の別の隊員が上を向いたところ、天井のほうに何かを見つけた。赤い光が点滅している。隊長が強い照明を持ってこさせたところ、照らし出されたのは「なんだ、こりゃあ」であった。かなり大きい。丸くて風船爆弾のようだ。お馴染みの目玉のオッチョのマークが描かれている。赤い光の点滅は、なぜ点滅などさせたか知らないが、本体よりずっと小さいので黒目の部分だろう。


 ずっと前に話題にしたように、反物質はほんの少しでも物質と接触すると大爆発を起こす。らしい。見たことがある人はいないはずで、ビッグバンと同じく仮説に過ぎない。

 ともかく仮説どおりなら、このように天井にぶら下げておくこと自体が不可能である。唯一の可能性として、風船の中身が真空で無重力状態になっており、反陽子爆弾はその中に浮いていて、地球の自転にも地震にも台風にも揺るがず漂っているという状況を考えてみたが、ちょっと難しいと思うな。


 では、お得意の嘘か。インチキ爆弾か。でもその割には、死ぬ前の”ともだち”も、間もなく出てくる敷島娘も本気のようだから無視できない。それにサダキヨはカンナに「漫画が現実に」と懸念を表明していたのだ。

 それにしても”ともだち”はカンナに言った。すべての文明が滅びても、あれだけは残ると。爆心地になるのに残るだろうか。このセリフもやはり大ウソか? それとも第22集でケンヂに言った「かまわないんだ。あそこがどうなろうと。」のほうが嘘か? 

 でも、こだわりがないなら、なぜ塔の中で遊んでいたのだろう。分からんことだらけ。この風船ガムが最終的に何だったのかも、その後どうなったのかも描かれていないので、あまりに情報が足りない。追い追い考えるか。宿題が増えすぎて、覚えきれなくなってきました。


 こうして散々書いておきながら今さら何ですが、本作はハードSFではなく、私のようにスプーン曲げは理解できない、タイムマシンは有り得ない、ヴァーチャル・アトラクションは説明困難なところがある、反陽子ばくだんは現実的でない等々、舞台装置に難癖ばかりつけていてはストーリーを楽しめないのでいい加減にします。特に「21世紀少年」は仮想現実の仕組みを駆使しつつも、心理劇的な要素が強い。これから、ややこしい場面が続く。



(この稿おわり)





風船爆弾基地図  (2013年12月12日撮影)




その近くで写した勿来の空と海  (同日撮影)













































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