おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

流星号 (20世紀少年 第812回)

 流星号、いい名前である。なんたって日本語だ。昔は日本の飛行機も「よど号」などと固有名詞がついていたものだが、今は数字と社名の組み合わせだけで風情がない。間もなく全廃されてしまう青色の深夜特急、ブルー・トレインも総称こそ英語だが、各路線は奥ゆかしい和名がついていたものだ。

 流星号は自動車仕立てのタイムマシンで、主題歌によればマッハ15のスピードが出るらしい。こんな速度で地上を走ったり飛んだりされたら(車のくせに宙を飛ぶのだ)、大変な迷惑行為(しかも、往々にして無人運転)なのだが機械を悪く言っても仕方がない。ちなみにスペースシャトルの速度は万丈目の好きな好きなブランド、NASAのサイトによると時速17,321マイルとあり、私の掛け算・割り算に間違いがなければマッハ22強にあたり流星号より速い。


 大人のケンヂに反陽子爆弾を知っているかと尋ねられたケンヂ少年は、然りと首肯した後、まず「スーパージェッタ―」の名を挙げ、続いて「W3」(ワンダースリー)にも出てきたと付け加えている。どちらも同じころ小学館の少年サンデーに連載されていたので、ケンヂはその連載を読んでいたのだろうか。また、両方ともアニメにもなっている。私はいずれもマンガの記憶がなく、アニメで観た。今でもジェッタ―の「流星号、応答せよ」という甲高い声の響きを覚えている。

 もっとも相手は無線タイムマシン車なのだから、日本語で呼びかけなくても飛んできそうなものだが...。マグマ大使なんて犬笛で呼び出されていたのに、さすがは未来の子、丁寧なものだな。主題歌の前にジェッタ―の自己紹介がある。僕はジェッター。さすがに自分ではスーパーなどと言わない謙譲さがよい。続いてこう言う。「一千年の未来から時の流れを超えてやってきた」そうなのだ。


 日本語といえば、このブログは1千年後の子孫にも読んでほしいと以前書いたが、その時、心配したのは我が家系と現状のインターネット環境が存続しているか、また、コミックス「20世紀少年」が保存されているかについてであった。しかし、仮にこれらが確保されたとしても、まだ課題があったのに先ほど気付いた。日本語が変わっていたら、誰も読めないではないか。

 われわれは千年ほど前に清少納言紫式部が書いた大和言葉を殆ど読めない。これでは現代において激しく変容し続けている日本語が、千年後にどうなっているか知れたものではない。悩みは尽きないが、幸い少なくとも人類は絶滅していないらしい。ジェッタ―はタイムマシンに乗るにあたり、古語の勉強をしてきたか、自動翻訳機でも使っていたのだろう。

 
 さて、大人のケンヂは意外な即答に「何だって」と驚き、「知っているのか、教えろ」と子供ケンヂの肩を激しくゆすって痛がらせている。子供はスパージェッタ―だよと教えたあとで、テーマ・ソングを歌い始めた。アニメも見ていたな。大人も一緒になって歌い始め、あのジェッターかとようやく気付いて、流星号を呼んでみせ子供を驚かせている。少年は「あれに出てくるバクダンの名前だ」と教えてあげた。

 大人のケンヂはこれに応えず、今の俺も未来の国からやっていたのだから同じようなものかと感慨にふけっている。子供時代の自分と合唱できるなんて、せいぜい夢の中でしか起きそうもない羨ましい出来事であるが、彼のミッションはこのくらいのことで喜んでいられない。それにどうやらケンヂは私と同様、スーパージェッタ―に反陽子爆弾が出てきたことを記憶していないのではないか。


 ところで前にも書いたが、私はタイムマシンという代物を信じない。過去という時間はあっても、過去にあった空間がどこかに保存されているとは到底、思えないからです。空間がなければ移動できない。それに、タイム・パラドクスの問題はどう考えても私には解けない。過去に行き過去の自分や周囲の人間と会ってしまったら、その瞬間に今の自分も変わる可能性がある。良いほうに変わる保証はない。ただし、情けないけれど良いほうに変わる確率が高そうだが...。でも、アンモナイトのお昼寝なら見てみたい。

 ヴァーチャル・アトラクションはフィクションという形式を借りて、この矛盾を見事に乗り越えている。SFはこうでなくてはいけないぜ。ただ単に突拍子もない機械やら宇宙人やらが出てくるだけなら、時代設定を未来にする必要はない。文庫本「ソラリスの陽のもとに」のあとがきだったと思うが、作者のレムは「宇宙には人間が理解できないものがあるはずで、それを書こうと思った」という趣旨の執筆の動機を語っていた。実はダース・ベーダ―は父ちゃんでしたというような解決はファンタジーであってSFには不要のものである。


 ケンヂ少年は夜なのに帽子をかぶっている。「で、その反陽子バクダンがどうしたの?」と素直な質問をしているが、未来のケンヂは「聞きたいのはこっちだ」と愛想がない。そこで少年は追加情報の提供をしたのだった。ワンダースリーにも出てくる。大人は「なんにしてもネタ元はマンガか」と頭を抱えてお礼も言わない。W3の主人公はかつてのケンヂと同様、ウサギに変身したのだぞ。

 ワンダースリーの反陽子爆弾は、私も2年前にコミックスで確認した。確かに出てくる。地球が悪い星だったら、「一瞬でボン!!」なのだ。バクダンの規模によっては、惑星ごと対消滅。大人のケンヂは考え込んでいる。ジェッターでは一緒に歌って終わりだったが、W3におけるバクダンの存在感には心当たりがあった。死んだ”ともだち”の置き土産がある限り、地球は悪い星のままかもしれない。




(この稿おわり)







この日ずっとこの辺りをウロウロしていた飛行船。そりゃここが一番、目立つもんね。
(2013年10月30日撮影)








 さあ! 不思議な夢と遠い昔が好きなら
 さあ! そのスイッチを遠い昔にまわせば

            「タイムマシンにおねがい」   サディスティック・ミカ・バンド




































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