おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

お疲れさん (20世紀少年 第808回)

 上巻の88ページ目。ユキジの昔話が終わり、夜の空き地に立つ小さな小屋が描かれている。この小屋は第19集の最後に出てきた。ヨシツネが玄関先を掃除していた最後の秘密基地である。ここに隊長は自らも含めると9人の戦士をお招きして、慰労会を開催することに決めたらしい。「お疲れ〜」というのが乾杯の発声だ。それはそれは疲れたでしょう。ビールが入っているらしきプラスチックのコップを持っている腕は6本。

 その6人は「本当にお疲れさま」と涙をこぼすヨシツネ、「泣くなヨシツネ」と上機嫌のケロヨン、「イエーイ」のコンチと「ウィー」のヤン坊マー坊、笑顔のマルオ。オッチョとユキジは飲んでいないのだろうか? 久々の宴会なのに。でも表情は穏やかだ。1997年のクラス会、二次会のカラオケ、そして飲み会ではないが酒の席としてはドンキーの通夜。それ以降、断酒していたわけではないだろうが、彼らが飲酒している姿は描かれていない(2014年の年越しの献杯があったか)。そういう時代でもなかったし、そういう気分でもなかったのだろう。


 ホストのヨシツネは責任感を感じてか、「えー、こうしてみんなが無事揃ったのも、ひとえに...」と両膝立てて開会の辞を述べ始めた。案外、彼の場合、スピーチは下手の横好きなのかもしれない。しかし、ケロヨンに「もうあいさつはいいよ」と阻まれ、食い物を目の前にしたマルオが「食おう食おう、腹ペコだ」と続けたため隊長の挨拶は中断となった。「ひとえに」の続きが聴きたかった。「さすがは僕だ」くらいのことは、この場なら大丈夫。

 これで8人。残りの一人について、「ケンヂはどうした」とケロヨンが問う。焼き鳥を食っているコンチ(彼は粗食に耐え続けたのだから、さぞかし美味かろう)が、「外のテント。呼んでも来ないんだ」と答えている。ヨシツネによれば、旅が長かったので折り畳み式の携帯用テントのほうが落ち着くかららしい。マルオによると作曲中なのだそうだ。それはそれでそうかもしれないが、しかしケンヂにしてみれば、まだ打ち上げは時期尚早なのだ。


 ケロヨンは、ミュージシャン気取りの奴は、ギター持つと自分の世界に入りやがるのか気に入らねえと自説を展開する。コンチは広義の同業者だから、それは偏見だと反対する。ケロヨンの反撃は冴えており、いい年してDJ気取りの奴も気に入らねえと返す刀でコンチを切り捨てている。この二人はかつてカエル帝国の同士だったのだが、ことここに至って内紛が起き、双子も乱入して混戦となった模様。「もう、いい大人がやめなさいよ」というユキジの声と笑い声が響く。

 この4人は飲んで騒いだせいか早くも酔いつぶれた。ヨシツネもテーブルに突っ伏している。ようやくビールを飲み始めたか、飲みさしたコップを手に「カンナは、どうしてる?」とオッチョが訊いた。そうそう、彼女はあのコンサートの後どうなったのだ。ユキジはどうやらお茶を飲んでいて、「サダキヨの看病で、ずっとつきっきり」と答えている。一応、恩師か。


 オッチョは続いて「サダキヨの容態は?」と尋ねた。彼もケンヂに負けず劣らず個人行動の人なので、最新情報に疎いのである。こちらの質問にはマルオが「よくない」と簡潔に答えている。「そういえばお前のことを、かっこつけしいと思っていたらしいぞ」とはさすがに言わなかった。ユキジによると、カンナは責任を感じているらしい。オッチョ達が円盤を撃ち落とさなければ、自分が集めた東京都民が犠牲になるところだったし、サダキヨもその犠牲になったというのだ。

 でも、サダキヨは彼女の誘いに乗って壁の中に来たのではないし、そもそも万博会場に行っていない。事故に巻き込まれるまでの彼の行動は、すべてサダキヨ本人の意思によるものであり、大けがを負ったのは少なくともカンナの責任ではなかろう。このあと徐々に分かるが、カンナはせっかく帰ってきたケンヂおじちゃんが、心ここにあらずの様子なので不安な気持ちを抱えており、サダキヨの看護に集中して気を紛らわしているという側面もある。


 ユキジによるとカンナは、まんまと”ともだち”の計画にはまり(ここまでは、そう言えるかもしれない)、サダキヨもその犠牲になったのだという。しかし、マルオは”ともだち”に計画なんてないと反論した。でなきゃ自分が死ぬかというのが論拠である。しばし、みんな黙ってそれぞれ思案にくれている様子。ところでヨシツネは酔いつぶれてはいなかったらしい。

 彼は3人が黙ったので、「なあ」と話を始めた。ユキジには言うなってケンヂに言われたけど、言っといたほうがいよな?というのが用件であった。マルオとオッチョは、沈黙を以て賛意を示した。動揺して「何?」と訊くユキジ。ヨシツネの返事は凶報と呼ぶべきものだった。「ケンヂ、ヴァーチャル・アトラクションに入るんだ。」というのである。

 これをケンヂがなぜユキジに対してのみ、仲間に口止めを頼んだかよく分からない。心配をかけないように? 行くなと邪魔されたら敵わないから? 両方だろうが、後者の色合いが濃い感じもする。だがそれよりも一番困るのは付いて来られることだろう。ケンヂは私と同じ世代で、男と女は違うというのが大前提の社会で育った。危ないところにユキジを連れていくわけにはいなかい。




(この稿おわり)





十月になっても咲いた朝顔、蕾を育てる夕顔 (2013年10月2日撮影)








 I shouted out "who killed the Kennedys?"
 And after all, it was you and me.

          ”Sympathy for the Devil”   The Rolling Stones

 あれから50年、娘が大使か...。














































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