おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

俺達の旗 (20世紀少年 第801回)

 目玉と左手を組み合わせた俺達のマークを考案したのはオッチョであるが、それを旗に仕立て上げたのはドンキーである。旗になった時点でオッチョの当初目的である「このマークを知っているのは本当の友達だ」という役割は発展的に解消されて、誰の目にも見えるものになった。そして悪用され、取り返すのに苦労した。

 ドンキーがこのマークを旗印に使うべしとの構想を得たきっかけとしては、まず間違いなくアポロ11号が月面に立てた星条旗に触発されたに違いあるまい。日付も特定できる。1969年7月21日、日本時間で午前11時56分20秒と第1集に出てきて、「僕達も月面に旗を立てよう」と神社の階段で彼は宣言しているのだ。


 だが、旗を立てる機会は、彼が月に行く準備が整う前に訪れた。おさらい。第21集のユキジによる回顧談によると、人類が初めて月に立ったのと同じ年の夏、マルオがフルチンでヤン坊マー坊に投げ飛ばされて秘密基地が破壊された。ケンヂが一人で敵討ちに向かい、オッチョがラブ&ピースを中止して合流、応援にかけつけるドンキーが初代の旗をユキジに託して走り去った。

 この旗は戦闘中、立てろと叫ぶドンキーとケンヂに励まされて、何度倒されてもヨシツネが立て直した。上巻66ページ目に出て来る旗はこれと同じものだろう。青空と入道雲、ミンミンゼミの声。降ろすな、立てろ、それは俺達の旗だという声が遠くから響く。


 見上げているのはランニング姿のマルオ、横縞Tシャツのヨシツネ、おかっぱ頭のユキジ、鼻水タオルのドンキー、笑顔のコンチ、自慢げなモンちゃん、これまた威張っているケロヨン、腕組みしているオッチョ、野球帽のケンヂ。本当の友達みんなで九人。

 「よげんの書」に書かれた9人の戦士はこのメンバーを指している。大みそか当日は預言どおりにはいかなかったが。作者が9人としたのは、一説によると「サイボーグ009」がお好きだったからだと聞いたことがあるがどうか。去年、009はアメリカでアニメ映画になった。先方もネタ切れだな。しかもアニメのサイボーグたちは、そろって人相が悪くてかなわん。


 2代目の旗はもう少し大きくて、これも第1集に出てくる。秘密基地の閉鎖式典において、再びドンキーが作って持ってきたのだ。この旗は、作った本人の葬式の夜、モンちゃんが発掘したカンカラの中から出てきた。地球の平和を守るときが来たんだな。

 3代目の旗はケロヨンが東村山の秘密基地を閉鎖したとき、カエル帝国の旗に代えて掲揚したものである。しかし、直後に息子の修一君が親に無断で降したらしく(それとも2枚あったか?)、円盤の撃墜現場で披露している。見上げているのはスーツ姿のマルオ、これまた威張っているケロヨン、流血のオッチョ、野球帽のケンヂ。平和は守られたのです。


 原っぱで見上げるほどの旗を掲げたということは、もはや秘密の基地ではなく双子に対する宣戦布告をしたに等しい。この鋼鉄の遺志は旗手を務めたヨシツネが、翌冬に原っぱがガッツボウルに乗っ取られた後も醤油工場の跡地で引き継いだ。ただし第14集のヴァーチャル・アトラクションでは旗が見えない。

 ヨシツネ隊長は”ともだち”歴においても、俺達の旗は使わず、源氏の白旗を掲げておりました。本当の仲間が戻って来るまで差し控えたのでありましょうか。ともあれ、旗を見上げる少年たちの顔に傷跡はなく、たぶん戦ってから数日後、基地再建の際に掲揚したのだろう。戦いのはじまり。



(この稿おわり)


 


うちのDVDセットに入っている写真





 砲弾の放つ赤い炎
 空中で炸裂する爆弾
 おかげで夜通し見えたものだ
 俺達の旗がまだそこに立っているのが

                    「星条旗よ永遠なれ」










































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