ダミアンたちが「悪魔くん」の話をしていたころ、北方検問所の見張り塔では星巡査がのっぴきならない事態に直面している。彼はバイクに乗ってやってきた「宇宙人」に向かって、止まれとか、それ以上近づいたら発砲するなどと警告しているのだが、よほど宇宙人が怖いらしく額に汗を浮かべているし、声も上ずっている様子である。
相手の外見はどう見ても人類だが、「惑星からの物体X」のような例もあるので油断はならない。この映画は私が社会人になったばかりのころの古い作品だが、「寄生獣」が好きなお方には是非お勧めの映画である。原題は「The Thing」という切れ味鋭いタイトル。
星巡査は「人間なら名前を言え」と、やや動転気味の命令を下している。相手は今回も「おまえの名前は?」と訊いた。礼儀はこちらが正しい。先方の名前をお尋ねするときは、先に自分が名乗るのがこの国の作法である(そうではない外国もあると聞いたことがあるが、どこだか忘れた)。
星巡査は不意打ちを食らって「ひ...?」とたじろいだが、何とか持ちこたえて「自分は星巡査である」と真面目に答えた。「星くんか」と相手は言った。「それじゃ俺は」と例の調子も忘れない。「矢吹丈だ」とケンヂは言った。これから先、ほどんと笑顔を見せない偏屈男になってしまった主人公だが、ここでは黒メガネで分かりづらいけれど、どうやら笑顔だ。
星くんと矢吹丈は、エロイムエッサイムと悪魔くんほどの強い関連性はないのだが、何と言っても同時期に週刊少年マガジンに連載されて大人気を博したマンガの主人公であり、アニメも好評で何回か再放送されている。わが世代の男にとっては、生涯のヒーロー・コンビなのだ。
星飛雄馬は酒乱の父と、キリコみたいな母代りの姉に育てられた。幼少のころより、上半身に大リーグボール養成ギプスというバネ仕掛けの拷問器具で虐待されるなど過酷な少年時代を過ごしたが、父一徹は東京オリンピックや東名高速、東海道新幹線などの建設ラッシュに湧いた高度経済成長期に、昼夜を問わず建設作業に従事して息子を高校まで進学させた立派な親でもあった。
家族は彼を「ひゅーま」と呼び、伴は「星」と呼び、アームストロング・オズマは「ヒューマ・ホシ」と呼んだが、「星くん」というのはライバル花形満の口癖である。どことなく高慢にそう呼ぶ。花形は飛雄馬より学年が上なので、星くんと呼ばれて飛雄馬は「花形さん」と応じているのだが、伴との会話などでは「花形」と呼び捨てにしていて若干、表裏がある。
後年、「タッチ」や「がんばれ元気」などが流行ったころ、「巨人の星」や「あしたのジョー」はスポーツ根性ドラマ、略してスポ根などという蔑称で一括りにされていたものだ。もっとも今でも、オリンピックやワールドカップの選手のインタビューなどでは、「自分を信じてやるだけ」とか「気持ちで負けない」とか、結局、根性じゃんと思いながら観ている。
ニセの矢吹丈の自己紹介で第17集は終わる。次の第18集はカンナのゼツボウが描かれるとともに、ケンヂおじちゃんが東京に向かって試練の道を歩み始める巻でもある。今や万丈目は不調だが、オッチョは相変わらず元気だ。
(この項おわり)
腕も折れよと 投げ抜く闘志
熱球唸る ど根性
巨人の星 主題歌
鉄腕上野に捧ぐ
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