おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

ヨシツネの記憶 (20世紀少年 第726回)

 第21集173ページ目に出てくるヨシツネの秘密基地(ここまで堂々と建っているのに秘密かどうか...)は、第19集の最後にカンナとオッチョが訪問した小屋と同じであるが一か所違う。その時なかった白い旗が、今や高々と掲げてあるのだ。どうやら隊長は遠足隊を送り出したあとで、わざわざ掲揚柱を立てて旗を上げたらしい。その意図や如何に、後ほど考えます。

 若者が大勢集まっているが全員ここに住んでいるようではなく、彼らの会話の様子ではヨシツネ隊長が召集したらしい。その隊員たち相手に先ずヨシツネは昔話を始めたようで、秘密基地が双子につぶされた後の心配をさせている。若者らはきっと隊長の仲間が結集したに違いなく、ということはケンヂやオッチョの出番ですねと手に汗握る。


 確かに僕はケンヂたちを迎えに行ったと隊長は語った。会場は「待ってました、正義の味方の登場だ」と多いに盛り上がっているところをみると、ヨシツネは「正義の味方」の勘定に含まれていないらしい。氷の女王一派は何度も死地を潜り抜け、多くの仲間を失っただけあって軍隊然としており、カンナさんの言うことならなんでも聞きますよと規律正しいが、その点、ゲンジ一派の連中はヤンチャであり隊長相手に言いたい放題で楽しい。

 ヨシツネの記憶は少し誤りがあり、第6集によればケンヂはマルオの姿を見ただけで一人戦場に向かったはずで、他方ヨシツネはどこかでマルオと合流してオッチョを呼び出しに行った。オッチョは中村の兄ちゃんちの天井を見上げながら、ジミ・ヘンドリクスがジミヘンで落合長治がオッチョでなどとくつろいでいたのだが事態は急を告げた。彼は主人公のケンヂよりも絵になる男であり、このときも「ラブ&ピースは一時中止だ」という希代の名文句を残した。


 しかし、ケンヂとオッチョも双子の敵ではなく、十六の字固めという前代未聞の技で返り討ちにあった。この日、ヤン坊マー坊に一人立ち向かうケンヂの後ろ姿を見のがしたケロヨンとコンチが、血の大みそかに来なかったのも全くの偶然ではあるまい。まあでも負けは負け。「強え、ヤン坊マー坊」「で、その決着は?」と満場騒然となるが、「それがよくおぼえていないんだ」と隊長は言う。

 会議の招集は最後にヨシツネが述べたように、「勝ち目のない勝負ってのがあるんだ」ということを伝えるのが目的だったのだが、その真意はついに伝わらなかった。ひとえに話者の責任である。「何だか景気の悪い話だなあ」と率直な感想が漏れる。逆にゲンジ一派の結束を固める集会じゃないのかと責められて、口ごもったヨシツネは趣向を変えてホワイト・ボードに黒々と「入」の字を書いた。


 こちらは真意が見透かされており、「人は支え合って生きていくってやつでしょ」と金八先生のマネも功を奏せず、さらに隊長それは「入る」でしょうと注意されて、ヨシツネは得意のあいやややで消している。かつて「4」と「千」を間違えた人だ。隊員はこの頼りないのが取り柄の隊長の扱いをよく心得ているようで、そのあと助けに行ったでしょうと話を進められてしまい、「そういわれれば言ったような」と口走ったため、「さすが隊長」と信頼を取り戻している。

 あとは若者の勢いに押されっぱなし。「最後に正義は勝つ」と気合も入った。うん、やはり最後に勝つなら愛より正義だよな。ヨシツネは収拾がつかなくなり、話題を変えて外の白旗を降ろそうと言い出した。理由を訊かれてもうまく説明できず、部下からは白旗は降参しているみたいでいやだとか、臨戦態勢に白旗はないよなという当然の議論が噴出して偶然、意見は一致し、白旗は降ろされた。ヨシツネが「まいったな」と一本絞めて集会は終わった。


 隊員たちの認識どおり、白旗は現代の軍事において全世界的に降参や一時休戦のシンボルとして使われている。ボクシング等で白いタオルが投げ入れられるのも同じ趣旨だろう。だが、昔の日本ではそうでもなかった。白は源氏の旗であり、平氏が赤であった。平家物語の至る所に出てくる。木曾義仲が挙兵したときも、壇ノ浦の義経軍も白旗を掲げて戦っている。

 頼朝の三代前、すなわち源義経の祖父の祖父にあたる八幡太郎義家の時代から白旗は源氏の象徴だったのだ。だからこそ、兵器も集めて挙兵の決意をしたヨシツネは秘密基地にゲンジゆかりの白旗を掲揚したのである。だが、遠足組は目的を果たせずに戻った。ユキジは道場を閉めた。ヨシツネは解散を決意してゲンジ一派を集めたのだが、そうは問屋が卸さず逆効果になった。だが正義はやはり最後には勝つのであった。



(この稿おわり)





住友三角ビルより東京都庁を望む。
写真右下の公園の向こう側が甲州街道
血の大みそかで巨大ロボットが「モニュメント」と出会ったあたり。
(2013年5月18日撮影)


































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