おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

善いも悪いも (20世紀少年 第760回)

 第22集の119ページ、大泣きして話せなくなった指導者に代わって、「そういうこと。みんなわかった。」とユキジは言った。何が「そういうこと」なのか明確でないような気がするが、追及するのは野暮であろう。男たちの目付きが鋭くなっている。真意は伝わったのだ。ユキジはここで長広舌をふるう余裕がない。事情があるのだ。

 彼女によると、決行を早めた理由は「もう一つある」とのことだ。もう一つということは、最初の一つがあるはずなのだが、それが”ともだち”の締切である1週間のことなのか、カンナの行動を放置しておけないという意味なのか、私にはよく分からない。ヨシツネの口ぶりからすると後者か。

 
 ユキジの演説は衝撃的であった。この中に”ともだち”のスパイがいるかもしれないというのだ。相手がもともとスパイ大作戦が好きな連中である上に、ユキジは「そういう情報が確かにある」と言った。ざわめく若者らを前に、ユキジは生き残る最後のチャンスを裏切り者に台無しにされたくないと述べ、「みんな生き残るのよ」と命じて場を締めた。

 第7話ではこのシーンの次に、先述の高須と潜入者の会話が出て来て、あの方が自らリモコンを手にされたという恍惚の人、高須の顔で終わる。その途中に、蜂起は24時間後に決行だと叫ぶゲンジ一派の雄たけびが響くシーンが挿入されている。「景気のいい声が上がっているが、どこまでもつかな」と神様は悲観的である。隊長が隊長だもんね。


 あんたも一緒に決起を呼びかけなくていいのかと神様はオッチョに語りかけた。「俺にはそういう才能はない」とオッチョは謙虚である。まあ確かに先に手が出るタイプではあるが、人間、やってみなけりゃ分からないとも思うけれど。もっともオッチョは少年時代から肌身で感じているのだ。自分も含め皆がなぜか間抜けヅラのケンヂについていくことを。

 だが操縦の才能は大したもんだと敷島教授が褒めている。オッチョはロボットを操るのが上手くなったのだ。ここでも彼は乗り心地の悪さに慣れただけだと淡泊である。サダキヨによれば、マジンガーZのように乗って操縦するのはロボットの「概念」から外れており、戦闘車両に近いとコイズミに威張っているのだが、これはどうみてもやっぱり戦車ではなくでロボットです。


 実際、敷島教授は「これは乗り物じゃない」と言っており、リモコン操縦をオッチョに勧めている。教授は大事なリモコンだから、大切に保管してあると言って、オッチョにアニメの主題歌を思い出させている。珍しくオッチョは軽く笑っているのだが、事態は笑っている場合ではなくなっていたのだ。

 子供の遊びはいつまで続くんだとオッチョ、終わりなんかない、大人が叱ったってやめやしないと神様。そして神様は「終わるとしたらその子供自身が」と言いかけたのを、オッチョが「大人になったときですか」と引き受けた。そして残念ながら、その子供は最後の最後まで大人になろうとしなかったのだ。


 少し時間が経過した場面で、神様たちは夜道を歩いている。彼によると小泉響子がストライクをとり、自分に向かってガッツポーズをする夢を見たそうだ。いい予知夢じゃないですかとオッチョ。そう、かつての夢は叫び声を上げながら起きるほど怖いものばかりであった。でも神様は弱気で、いつも見ていた夢は予知ではなく、「俺のはかない希望」だったのかもしれないと言う。

 そこに若者が一人、駆け寄ってきた。急報を耳にした敷島教授が「リモコンが...」と絶句し、早くもその意味を悟った神様とオッチョが驚きの表情を浮かべたとき、「ゴッ」という音が響いた。そして目に光が宿ったロボットが、いきなり動き出したのであった。頭部にテントが絡まり、血の大みそかの水素ガスの気球と同じような視覚的な効果を生んでいる。大事なリモコンは敵の手に渡ったのだった。



(この稿おわり)






地味なボウリング場。 (2013年6月9日、世田谷にて撮影)






 飛ばせ鉄拳 ロケット・パンチ... 「マジンガーZ」の主題歌より 
 (ロボット会議で真似っこしていましたね)





































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