おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

面倒なもん (20世紀少年 第738回)

 第22集の11ページ目は「なんとかしなくちゃ」というヨシツネ隊長の言葉で場面が切り替わり、格子に布張りの四角い建築物みたいなものが出てくる。その中でゴウンゴウンと音を立てているのは、後ほど善いも悪いもリモコン次第という鉄人28号の伝統を引き継ぐことになる新世紀巨大ロボットだ。エンジンが稼働しているのはオッチョが電気系統を使っているためだ。

 第21集でオッチョはユキジに、ロボットなら目立たないところに移しておいたと語っていたが、今の東京でこんなに大きくて妙な形状の建屋から機械音が漏れていたら、思いっきり目立つのではないだろうか。まあ、ロボットが裸で立っているよりは、衝立があったほうが「まだまし」なんだろうけれど。それに、屋根がないので円盤からは丸見えだ。


 その囲いの中で「空飛ぶ円盤か...」とつぶやいた敷島教授は、ヤン坊マー坊に対して「しかし、お前たちも面倒なもんを作ったものだな」と責めている。隣のユキジの顔も怖い。何より面倒なものを作ったのは敷島博士だと思うのだが。しかも新旧二体の物騒なロボット。

 円盤は世間に面倒をかけたといっても、今のところペンキの噴霧しかしていない。双子の反論によると円盤を作らないと殺されていたからという正当防衛の主張であり、かつ対抗手段としてロボットを作ってもらったんじゃないですかと話を逸らしている。

 ヤン坊マー坊はこのロボットで都民を万博会場に追い立てたらどうだと提案しているのだが、これ以上、パニックを引き起こしてどうするのとユキジに一本取られて敗退。双子は再び例えばの話だよとか、それよりオッチョはどうしたと話題を変えている。ユキジによるとオッチョは「射ち損じは許されない」と言い残して、上でトレーニング中だという。 


 上とはロボットの頭の中だ。レーダーの画面を見ながらオッチョが対空砲火の訓練をしている。ロックすれば必ず命中するというものではないのだろうか。ちなみに、雑誌で読んだお話であるが、対イラク戦争におけるアメリカ軍の最初の攻撃は、軍事人工衛星でミサイルを誘導し、イラク軍最大のコンピュータが設置された施設の煙突から内部にミサイルを打ち込んで敵の電脳中枢を破壊したのだという。

 これは本当か? 技術的には可能なのだろうが、そんな大事な施設に煙突なんか立てるだろうか。サンタさんでも待つのか。ともあれ、もうアメリカと戦うのはやめにしたほうが良さそうだ。

 さらにユキジによると、オッチョは「今、人々を救える道具はこれだけだ」と言っていたらしい。この道具という無造作な表現がオッチョらしくてよい。本来、彼の戦闘には棒以外の武器など必要ないのだが、相手が空を飛ぶとあってはこちらも飛び道具でも使わないと始末に負えないのだ。


 そのころカンナたちは「放送局」に向かっている。テレビ局も略奪を受けたようで、下層階の窓ガラスがほとんど割れている。地球防衛軍が見当たらない。隊の一人が「放送局は連中にとって重要な防衛拠点のはずなんですが」と怪しんでいる。

 これは古典的な事実で、革命やクーデタでは自軍の国民に正当性を訴える通信施設が必要だから真っ先に狙われる拠点の一つである。私が駐在していたときのカンボジアも半内戦状態で、日本がODAで建てたテレビ局の支局が襲撃されて職員さんが一人亡くなられた。


 ただし、これからの現実世界ではどうだろう。国営放送が何を言おうと、携帯端末で国民が情報交換をする時代になった。カダフィーもあんな目に遭うとは想像もしていなかったに違いない。ともだち歴においては、テレビがブラウン管、音楽もカセット・レコーダーと電化製品まで先祖返りしているので、メールもFacebookTwitterMixiもない。


 カンナたちは古戦法にのっとってテレビ局を抑えにかかった。ポスターだけでは家に閉じこもっている人たちに万博会場の集合通知が届かないのだ。ハイド・マイクで怒鳴ってみても、相手が誰だか分からないから都民は怖いのだろう。音楽付きで氷の女王の声なら通用するかもしれない。

 カンナの作戦は二手に分かれての挟撃で、A班は非常階段から上へ、B班は正面突破、新撰組池田屋襲撃の当初計画と似ている。ただし近藤は土方の到着を待たなかったが。カンナも含むB班が見たもの、それは意外にも廊下の床に転がる地球防衛軍の兵士の死体であった。靴音がして田村マサオの登場。彼とカンナは相手の素性が分からずお互いに誰だと尋ねあっている。


 カンナが民間人だと答えると、マサオは「仲間だ」と勝手に仲間入りし、銃を下ろせと銃を構えたままで言う。簡単に「はい、そうですか」と言うことをきくようなカンナたちではなかったが、マサオに地球防衛軍みたいになりたいかと具体的な軍令拒否の罰則を示されて大人しくなった。マサオも銃を下ろし、安心したか背中を向けている。

 ところで13番とカンナは全くの初対面ではない。それどころか、13番はカンナという「神の娘」がいることを知っており、場合によっては「絶交する」とまで言って3番を激怒させ、歌舞伎町の教会では彼女の目の前で救世主を暗殺した過去がある。でもお互い相手の顔を見なかったようだ。

 ついでにいうと、もっと昔、田村家を訪問したケンヂの背中から赤ん坊のカンナはマサオを見て態度の悪さに怒っている。しかもマサオはドンキーの殺人幇助犯だ。世の中、知らないで済むならそれに越したはないことも少なくない。



(この稿おわり)





葵の花。人生、楽ありゃ苦もあるらしい。(2013年5月19日撮影)

 















































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