おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

白いソナタ (20世紀少年 第686回)

 第12集第1話のタイトルは「あんた誰!?」という。第20集には「あなた、誰?」というカンナの驚きの声や、「あのコは誰?」というキリコの恐ろし気な問いが出てきたが、この章にも「Who are you?」がたくさん出てくる。冒頭、以前も出てきたDJの発信基地にある高いアンテナが描かれていて、グータラ節がオン・エアだ。

 イエーイとコンチのしゃべりが始まる。ラジオの前にいるはずのみんなに、もう一緒に歌えるようになったかいと訊いている。第18集ではコンチがどこかでDJを一人でやっていることと、春さんのスタジオでグータラ節が北海道から発信されていることが出てきたのだが、ここでようやく両者がつながったわけだ。コンチはハガキだけではなく、電話リクエストも受け付けていると話している。誰に向けてでもなく。


 なんせ電話は一度もなったことがないのだ。最初に鳴らした奴に、豪華賞品プレゼントを約束している。間もなくわかるが豪華なものをもらったのは彼のほうであった。ここの電話番号は「北海道001-214...」と言いかけた。こういうときネットは便利で、この市内局番は札幌市である。番号を言い終わらぬうちに、電話が鳴った。誘った本人が「まさか」と絶句するほどのタイミングであった。

 コンチはしきりにリクエストなのかと尋ねているのだが、相手は「おまえか。ラジオ放送しているのは。」と言っただけで電話は切れてしまった。先方は所在確認が目的だったのだが、コンチは知る由もない。仕事の邪魔をされた彼は、例のポンコツ車で食糧の調達に出かけた。近くのスーパーはこの3年で食い尽くしたと言っている。あまり遠くに行きたくないがとつぶやきつつ、隣町に買い出しに行くことに決めている。これが命拾いになった。


 コンチは道端に見慣れぬものを見かけた。車を停めて近寄ると、何とまあヘリコプターであった。誰もいないし脚部にツタが絡まっており、相当前に着陸してそのままだ。機体に「JA」の文字と数字があるが、これは農協ではなく日本の国土交通省に正式登録された乗り物であることを示している。13番は第9集で新宿の教会から逃げるときにヘリコプターを使っているが機種が違う。

 「乗ってた奴はウィルスで」と言いかけたところで、彼は少し離れたところに倉庫らしき建物があるのを見つけた。ラッキー。看板に「銘菓 白いソナタ」とある。ドラマ「冬のソナタ」が大評判になったころ、行きつけのクリーニング屋のおじいさんが、あれを観てると「愛染かつら」のころを思い出すなあと高く評価していたのを思い出す。うちの近所にタイトルの由来である愛染明王をまつった自性院があります。


 残念ながら「冬のソナタ」は一回も観なかったし、なぜ今日に至るまで韓流がこんなに人気なのか、さっぱりわからない。まさか、若い世代が愛染かつら時代の作風を知っているわけでもあるまい(私だってクリーニング店で言葉に詰まった)。映画では「猟奇的な彼女」を観て面白いと思った。しかし、このタイトルはかなり損しているように思う。気軽に観ようという気にはなれまい。

 モデルとなったホワイト・チョコレートの「白い恋人」は、甘いものが苦手な私にしては珍しく時々食べた記憶があるお菓子でなつかしい。「面白い恋人」もいかにも吉本らしくて個人的には好きなのだが、当事者は業績にかかわるから真剣であり訴訟にまでなった。幸い和解したようで、是非これからは共存共栄を目指してください。

 
 はたしてコンチはホワイトチョコの食い放題とあった。当然、賞味期限は切れているだろうが、コンチは「いけますねこれは」と盛んに美味しがっている。遠出した甲斐があったのだが、しかし、彼の平和なDJ生活はここまでであった。奥の部屋に人の気配を感じたのである。「誰?」と声をかけたが返事がない。コンチはいったん白いソナタに戻ったのだが、もう一度その「商品開発室」を見たところ、小さな窓から鋭い眼光を放って誰かが自分をにらんでいる。

 コンチはあわてて隠れてから、いるなら出てこいとか、誰かいますよねとか、押したり引いたり誰何しているのだが、さっぱり反応がない。やむなく近づいてドアのノブを回そうとしたがカギがかかっている。ドアの下からのぞこうとしたとき、いきなり「外はどうなっている? ウィルスは?」という声が中から聞こえてきた。どうやらウィルスが怖くて逃げてきたらしい。万丈目より敏捷で、サバイバル能力が高い。


 コンチによると、この辺はもう大丈夫だという。「もう」ということは、過去は大丈夫ではなかったということだ。北海道は全滅という情報もあった。コンチは生まれつきの免疫を持っていたのであろうか。しかし相手は安全衛生状況を確認し終えたためか、質問の矛先を変えてきた。「敵は?」と訊いてきたのである。コンチは「はあ?」と当然の反応を示す。

 コンチは知らないが、中にいるのはかつて”ともだち”直属の殺し屋であり、アル・カポネにとってのマシンガン・マクガーンみたいな歩く凶器であった。その彼が身をひそめるほどの敵とは、ウィルス同様におそれる敵とは誰なのか。それは裏切り者を即刻「絶交する」組織であろうか。例えばドンキーを落とした男、サダキヨ、万丈目。粛清も大好き。なかなか出てこない相手とコンチの扉を隔てた会話が始まる。


(この稿おわり)




近所の坂に咲く桜。毎年の楽しみ。 (2013年4月5日撮影)





































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