第20集の第10話はドクター・ストレンジラヴ敷島教授と、彼の工場を訪問したヤン坊マー坊の珍問答で始まる。教授はやはり機械の修理が生業のようで、そこらに置いとけば直しとく愛想がないが、双子に違う要件だと言われ、「おまえら、殺し屋か?」とずいぶん極端な反応を示している。さすがのヤン坊マー坊も少し不本意そうだが、教授に言わせるとポンコツの修理以外にここに来る用事があるとしたら殺し屋しかおらんということらしい。
容疑をかけられたヤン坊は名刺を見てくれと頼んでいる。うち一人は今も「Y&Aコーポレーション」勤務でその代表というから、第5集に出てくる「Y&Mco」とたぶん同じ会社であり、マー坊の「野に下った」という表現が正確なのであれば、兄はいったん政府の要職に就いたが、弟のほうが立身出征したので腹を立てて元の会社に戻ったか。
教授は当然の質問として、どっちがどっちだと訊いた。どうせ覚えられないでしょうから、ヤン坊マー坊でいいというヤン坊の返事も投げやりで良いが、敷島教授は「そのヤン坊、ニン坊、トン坊がなんの用だ?」と別番組で受け流しており、なかなかやるではないか。
トン坊といえば、私の記憶によるとヤンマー株式会社は、ディーゼル・エンジンのスピードをアピールすべくトンボという社名にしようとしたが、鉛筆メーカーに商標を先に持っていかれて類似の昆虫名にしたはず。作り話かな。
さすがマー坊長官は政府内の機密に詳しく、”ともだち”が教授に空飛ぶ円盤の設計依頼をしたところ教授が断ったことを知っていた。あいつの注文は二度と受けんと教授の決意は固い。その結果、円盤設計はマー坊にお鉢が回ってきたのか。教授は死を覚悟している。よく断りましたねえと感心する双子に対し、気に食わなければ殺せばよいのに、こうして生かしたままだとウチワを使いながら元気がない。
ヤン坊マー坊はやはり鈍感にできているようで、2000年のロボットで人がたくさん死にましたねえと、人の傷口に塩を塗るようなことを平気で口にする。教授はまた嫌な思い出が蘇ってきたのだろう、二人に向かって「私を殺してくれ」と自暴自棄な頼みごと。「いや〜」と双子。「生き恥をさらしているだけだ」と教授もさすがに感情を抑えかねない様子。
3人の目の前にある麦茶と思われるコップの中身がなかなか減らない。ヤン坊マー坊も相手の心情を忖度してか、あの時は時間も予算も限られていたとか、教授の忸怩たる思い、わかりますとか、なかなか共感を示しつつ粘り強い交渉を続けている。魂胆があるのだ。教授に帰ってくれと言われても巨体を動かすことなく、われわれもいろいろあって”ともだち”を許せず、ついてはお願いがあるという。
教授は告発の証人になれという話と受け止め、そんな生き恥をさらすぐらいなら死を選ぶと言った。しかしヤン坊マー坊の依頼内容とは、「単刀直入に言うと、も一度、ロボット作りません?」であった。二人は”ともだち”の「予言」すなわち円盤襲来→地球は終わり→人類は火星に移住というシナリオをひっくり返したいらしい。
ところが”ともだち”の人気は依然として高く、市民運動も起こせないというが、この両名が市原さんのような市民運動をやるとは到底思えず、単なる話の接ぎ穂であろう。要点はその円盤を「チュドーン」と撃墜するロボットが欲しいのであった。「おろおろしますよ、”ともだち」とマー坊。「泣きべそかきますよ、”ともだち”」とヤン坊。
なぜか教授は立ち上がった。まず、グヒグヒ笑う双子を見下ろして、「おまえら、子供の頃、いじめっ子だったろ?」と初顔合わせで見抜くとは、さすがは元教育者、慧眼である。二人は「それはないです」、「まったくない」と異口同音に否定しているが、その前に一瞬目を合わせているので、ここはごまかそうとでも考えたのだろう。
ヤン坊マー坊は金ならいくらでも出せるし、時間もじゅうぶんあるという。金ならオッチョが怒っていたように、政商として荒稼ぎした金がうなるほどあるだろう。だが時間はどうか。前回とて1997年から2000年まで3年間あった。今回はそれ以上、待てるのだろうか。教授は会話を遮るように、ポスターのように丸まった大きめの紙をいくつかテーブルに置いた。
開けてびっくり紙束は、ロボットの設計図であった。というか、私が見てもさっぱりわからないが、双子は技師だから一目瞭然なのだろう。2000年のロボット1号は、ショーグンの観察によると足が単なるキャタピラーだったのに対して、どうやら、この図ではバネ仕掛けで歩行する仕組みらしい。あれから何度も何度も書き直したと教授は言う。もう一度、科学者の意地に賭けて。科学者の意地が変な方向に偏ると、とても困ったことになるのは山根が実証済み。心配である。
(この稿おわり)
外苑東通りの桜並木と、この国を守る省のタワー (2013年3月21日撮影)
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