これは良く知られたジョークであるが、歴史の流れの中に消えていくのは勿体ないのでここにも書き残す。訪米が決まった森首相(血のおおみそかの日の首相のモデルです)は英語が苦手なので、クリントン大統領に会った時の挨拶だけでも教えてほしいと周囲に頼んだ。答えていわく、まず「ハウ・アー・ユー?」と言うのが礼儀である。
すると相手は「元気です。貴方は?」と必ず訊き返すから、「ミー・トゥー」と答えて後は通訳に任せるべし。さて、本番において首相は発音を間違えたようで、「フー・アー・ユー?」と訊いた。あいにく相手は礼儀正しいイギリス人ではなくて、お茶目なアメリカ人である。「私はヒラリーの夫です」と大統領は答えた。首相は今度は正しく、「ミー・トゥー」と応じた。その後は知らない。
一人だけ内部に案内されたカンナは、サイコロをかたどったお洒落なインテリアが並んだ部屋で、丸テーブルの前の椅子に座って主が来るのを待っている。あまり表情がさえない。同じころ、キリコはケロヨンとマルオに、アメリカから帰ってきたときに会った”ともだち”について、「あの男は...」と話し始めている。緊迫の場面、カンナは靴音を聞いた。
見れば目玉覆面の男が一人で立っている。「よく来てくれたね。会いたかったよ、カンナ」と”ともだち”は言った。キリコのときは「久しぶりだね」と言ったのだが、カンナには最近、会ったのか? それとも懐かしくないのか? でも、コートのポケットに両手を突っ込んだままの行儀の悪さでカンナが立ち上がると、”ともだち”は「カンナ」と言って彼女を抱きしめた。
いつの間に英語の「ハグ」が日本語に定着したのだろう。背景にある文化が違うので、私には強い違和感がある。ハグする人もハグと言う人も。古い奴だとお思いでしょうが、古い奴こそ新しいものを欲しがるもんでございます。どこに新しいものがございましょう。生まれた土地は荒れ放題、今の世の中、右も左も真暗闇じゃござんせんか。と鶴田浩二も仰っている。今の世の中も荒れ放題だ。
「あなたは...誰?」と男を突き飛ばしてカンナは言った。
「あの男は...違う」と意を決したようにキリコは言った。
ケロヨンが思わず「違う?」と反応し、隣のマルオも驚いているようなので、彼らもオッチョやユキジと同様、信じられないが信じるしかないという行き場のない状況下で、今の”ともだち”はフクベエであると思っていたのだろう。しかし、キリコは「姿も声も、フクベエにそっくりだけど、あれは別の誰か」と断言した。
男二人はまだ驚きから抜けきっておらず、「別の誰か?」と繰り返すのみ。しかし、キリコの発言はまだ続きがある。本当のフクベエならカンナに手を出さない。「でも、フクベエでなければ、平気でカンナを殺すわ」とキリコは言った。彼女自身も殺されかけたのだ。説得力がある。親族二人にニセモノ扱いされた”ともだち”、さあ、どうする。
(この稿おわり)
Are you hungry? (2013年3月19日撮影)
前回の解答: 同じデザイナーの作品。大高猛氏。
もし俺がヒーローだったら
悲しみを近づけやしないのに
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