おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

再会の二乗  (20世紀少年 第363回)

 第13巻の13ページ目、警視庁のパトカーが2台、小学校の前に横付けにされている。警官は既に集まり始めた野次馬に手を焼いている様子。正月の未明というのに、ご近所なのか、初詣客であろうか。警察はトランシーバーを使っていて、「半径300メートル立ち入り禁止」、「不審者を見かけたらただちに報告」と早くも厳戒態勢である。

 ひみつ集会の開催予定など知らず、たまたま現場に居合わせただけのマルオとカンナは、警察の包囲網から脱出しなければならぬ。二人はお互いに「もしかして」と言い合って、相手の素性を知った。また一人、ケンヂおじちゃんの仲間が戻ってきたのだ。カンナには相手の体型という手がかりがあるが、マルオは良く彼女が誰か分かったなあ。当時は3歳だったのに。14年ぶりの再会である。


 第1巻でケンヂとマルオが、ケロヨンの結婚式に幾ら包むかという相談をしている場面が出てくる。カンナはケンヂ叔父の背中で気持ちよさそうに寝ている。赤ん坊のころのカンナは、相手や状況に合わせて表情や言動を変えるという特技の持ち主だったが、マルオは気を許せる相手だったのだろう。

 何もなかったように普通に歩こうとした二人だが、やっぱりお巡りさんに見つかってしまった。マルオは春波夫プロダクションの名刺を見せ(丸子橋マネージャーだな)、カンナは新人歌手のふりをして逃げおおせるのだが、これだけで重要参考人を解放してしまうとは、この警官は甘すぎるのではないか。


 ところが、二人はそのまま立ち去るわけにはいかなくなってしまった。早くもテレビの取材班が駆けつけて来て、「本当なんですか? ”ともだち”が暗殺されたって」という質問を投げかけたのを聞いてしまったからである。マルオは校内に戻る決断を即時に下した。

 ついては、「子供の頃、学校に出入りする秘密の通路」があったので、それを使うのだという。やはり、都会の学校は違うよなあ。私の小学校は、在学当時、周囲はほぼすべて田畑と農道であった。40年も前でしょとカンナはあきれているが、マルオの太鼓腹がかろうじて通過できる小道が残っていたのであった。


 二人が乗り越えるべき学校の外壁から、漫画家の角田氏が落ちてきた。秘密の通路を覚えている者が、他にもいたのだ。マルオは次に現れた男を一目見て、それが誰だかわかった。「”ともだち”が...服部(フクベエ)が死んだ」とオッチョは言った。オッチョとカンナは、新宿歌舞伎町教会で別れて以来のご対面。

 そして、マルオとオッチョは2000年血の大みそか以来の再会である。後刻、37ページ目のヨシツネの秘密基地で、二人がハイタッチ風に腕をがっしり組むシーンは私のお気に入りである。この二人は、巨大ロボットが大爆発を引き起こしたとき、ケンヂを除けば、最も爆心地に近いところで一緒にいた。


 このとき二人の身に何が起きたのか、物語は黙して語らない。仮に、相手を見捨てて「てんでんこ」に逃げていたら、こういう握手はないだろう。オッチョの逮捕、マルオの額の傷、読者の知り得ない何かがあって、二人は生き延び、再会した。

 臨時ニュースは、早くも”ともだち”の暗殺を伝えている。角田氏も含め、4名はヨシツネの基地に向かった(オッチョは警察に手荒な真似をせずに済んだろうか)。テレビ中継によると、友民党本部では全く何の動きもない。党首の万丈目が、ラリっていたからかなあ。しかし、”ともだち”が担ぎ込まれた蛯天堂大学病院では、一足先に医師団が”ともだち”の心肺停止を発表。訃報は世界中を駆け巡った。



(この稿おわり)



 

岐阜の荘川桜。忠魂碑は乃木大将の筆。
(2012年5月2日撮影)