おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

ひみつ集会のおわり  (20世紀少年 第359回)

 銃撃のあと山根はどうするつもりだったのだろう。確かに標的は倒れたが、死んだかどうか確認することもなく、目撃者のオッチョと角田氏には目もくれずに、「これで終わったよ」と言って理科室から立ち去った。何が終わったのか。彼と”ともだち”の関係が終わったのは確かだが。

 出がけに山根は振り向いて、オッチョに対し「これでキリコさんも...」と穏やかな表情で言いかけた。これでキリコも自分と同じように、”ともだち”に追いかけられずに済むという程度のことだろうか。これから、キリコがどれだけ苦労するか、分かるとしたら山根だけだと思うのだけれど。


 廊下に出た山根は、背後からの銃撃を受けて前のめりに倒れた。さすがのショーグンもびっくり。それにしても、廊下後方の「銃を所持した男を狙撃!!」という”ともだち”の連れらしき者どもは、何メートルか離れた場所に居る様子。しかも暗い廊下のかなたである。人影が”ともだち”ではないという絶対的な保証はあるまい。銃も何かの見間違いかもしれないし。まさかの銃声に動転したか。

 接近戦で一番、怖いのは同士討ちであると、多くの戦闘記録が伝えている。あとで銃弾を調べてみたら、半分以上が自軍のものだったなどという悲惨なケースもあるらしい。海軍とて同様で、日露戦争時代の軍艦はみんな西欧製でお互い似ていたから注意が必要であった。なぜかロジェストウェンスキーバルチック艦隊を黄色に塗り上げて、東郷司令長官の手間を省いた。


 ともあれ結果的には、部下は主人の敵討ちに成功して、山根は死んだ(ここではまだ息があったかもしれないが、とても命はあるまい)。そのころ外で2発目の銃声を耳にしたマルオが、「警察が来るには早すぎる」と言っているのが興味深い。おそらく、警察は”ともだち”の警備のため、周囲で待機・警戒していたのであろう。銃声に驚いて早速、駆けつけたとみえる。

 ちなみに、父が撃たれたことをカンナが知らないのは仕方ないとして、彼女は銃声どころではなく、父親の正体を直観的に知ってしまい、膝をついて座り込んでいる。「お嬢ちゃん、もしかして君」とマルオは言った。母キリコと似ていることは関口先生が証言済み。


 「あの男の顔は!」とお嬢ちゃんが叫んだとき、オッチョは追い詰めた途端に撃ち倒された男の、忍者ハットリくんのお面を外した。見覚えあり。「フクベエ...」とオッチョは言った。ここで第12巻が終わる。

 ところで、フクベエの死に顔を見てオッチョが驚いているのは勿論なのだが、気のせいか、脱獄から理科室に至るまでに何度も驚くべき事態に遭遇し、そのたび彼が見せてきた驚愕の表情と比べて、比較的、抑え気味に見えるのは私だけだろうか。


 彼が傍で聴いていた山根と”ともだち”の会話の内容からして、この二人が子供のころからの付き合いであることは分かったはずである。そして、山根の証言から彼の「友達」が秘密基地に侵入して「よげんの書」を見たことも知っている。オッチョの記憶力と洞察力。もしかしたら、予感があったのかもしれない。

 さて、続く第13巻に当事者の証言が出てくるが、殺気満々の物騒な”ともだち”一味がすぐそばまで来ているのに、オッチョと角田氏は、フクベエの脈がないことを確認している。それに、このあと少し時間が経過してから、彼らはマルオとカンナに会っている。実際、少々の間、理科室や廊下にいたのだろう。


 では追っ手はどうなったのか。オッチョは得意の獲物、棒をかついでここに来た。殺到した敵は、チャイポンの保証付きの「弾丸の当たらなさ」と棒術により、叩きのめされたのではないか。そうでなければ、さっさと救急車が呼ばれたはずだと思うな。

 「21世紀少年」の上下巻も含めれば、「20世紀少年」の単行本は全24巻である。ようやく、ここで半分まで来た。折り返し地点で、”ともだち”が死んでしまった。一体この先どうするつもりだと最初は思ったものだ。ともあれ私は、じっくり付き合うほかないので続けます。後半では、いかにして”ともだち”が理科室で生まれたのかも出てくるだろう。


(この稿おわり)



美濃国池田郡春日村の初夏の風景(2012年5月3日撮影)