おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

空飛ぶ円盤 (20世紀少年 第658回)

 第20集の70ページ目は、久々に描かれる巨大ロボットの禍々しい姿と、その下にざるそばと薬味のネギの絵がある。通常はラーメンを食べる係のマルオが、ここではケロヨンが打ったソバをすすっており、「んまい」とカンナのようなことを言っている。昔そば屋をやっていた頃とは比べものにならないと絶賛した。

 ケロヨンによると当時は製麺所からの取り寄せだったが、アメリカで鍛え、手打ちにしたのだ。今やったら大繁盛だとマルオは言うのだが、ケロヨンは後の祭りだ、取り返しは付かねえと悲観的である。マルオがキリコさんを救出したという話題を出しても、俺にできるのはそれくらいだと自嘲気味。


 市原弁護士の見立ては正しく、ケロヨンはキリコとともに”ともだち”の手下に拉致されたと語っている。しかし、よく解放されたなとマルオが疑念を呈している。ケロヨンも訳が分からないと言う。”ともだち”一派は、工場を爆破する際に、当然のことながらキリコらが大量生産していたワクチンを確保したはずである。

 すでにキリコは敵であり、ケロヨンも同じ。わざわざ日本に連れ戻したのは、形なりにも「せいぼ」の降臨を実現したかったからだろうが、その後は用済みのはずで、ましてケロヨンは居るだけ邪魔な存在のはずなのに、なぜか東村山に二人とも流された。しかもケロヨンはソバの栽培、キリコは実験と好きなことをやらせている。これは一体、どういう意図であろうか。


 私も私なりに結構、考えたのだが、やっぱりさっぱり分からん。結局、オッチョの言うとおり、”ともだち”は暴走の果てに崩壊せんとしており、もうキリコやケロヨンなど、どうでもいいのだろうか。いくらワクチンを作って配っても意味のない最終兵器は、すでに出来上がっていたのかもしれない。

 だが、ケロヨンはそういうことを知る由もなく、キリコから聞かされたという話をそのままマルオに伝えている。明日か一年後か分からないが、ある日、世界の主要都市上空に「空飛ぶ円盤」が飛来してウィルスを撒き、もうどうしようもなく世界は終わる。それが”ともだち”の計画だそうだ。


 空飛ぶ円盤の話題の初出である。ケンヂが書いた「よげんの書」には、サンフランシスコ、ロンドン、大阪にウィルスがばらまかれるとき、空飛ぶ紙飛行機か西洋凧のカイトのような目玉の描かれた飛行物体が登場するのだが、”ともだち”は20世紀末にこれを間に合わせることができなかった。遅まきながら、今回ようやく空に飛ばそうということか。

 空飛ぶ円盤は無数の漫画や映画に登場してきたが、個人的には「未知との遭遇」が強く印象に残っている。ストーリーは特段、大したことはないのだが(失礼)、あの現場になったデビルズ・タワーに行ったことがあるんだ。と言っても登ったわけではなく、周囲をぐるりと歩いただけである。何とも、けったいな石であった。


 地球最後の日についての会話が終わったとき、ケロヨンの息子が入ってきた。息子の修一だとケロヨンが紹介している。ケロヨンが先に立って、会ってもいいと返事をもらったキリコの実験室に向かう。その道すがら、修一君はケロヨンが血の大みそかの件を悔い続けていることをマルオに話す。

 息子は親父の真の姿をミシガンで見た。ケロヨンは炎に包まれた工場に残されたキリコを救出するため、バケツの水をかぶっただけの軽装で猛火の中に飛び込んで行ったのだ。そのために背中一面に大やけどを負ったのであった。半袖の下、わずかにケロイドが覗く。先ほど彼はマルオにそんな話はしなかったのだ。


 マルオはしばしケロヨンの背中をながめた。彼の額にも深い傷がある。「世界は終わらない。俺達と戦おう。」とマルオは言った。それから振り向くケロヨンの肩を抱いて、「おまえは最高だ」と語る。最低の男は、コペルニクス的にいきなり最高の男に転換したのであった。

 最後は雑談。空飛ぶ円盤は、なぜあのような形状をしているのであろうか。どんな宇宙人が乗っているのか。真空ではともかく、大気中で乱気流に巻き込まれたら、風に舞う葉っぱのようになってしまうに違いない。それを避けるためにはフリスビーのように回転しながら飛ぶしかないのでは。となると機内は遠心分離機のようになる。居住性が悪そうだ。乗りたくない。



(この稿おわり)




店内ではフランス人の子供たちが駄菓子を買っていました。納戸町にて。 (2013年3月9日撮影)
















































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