おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

市原報告 (20世紀少年 第651回)

 第20集の30ページ。ユキジの道場の一室にたどり着いた市原弁護士は両手に大量の荷物を抱えている。到着した途端にそのうちの紙袋のほうは底が抜けてしまい資料が床に散乱した。この弁護士もまた逞しく、ともだち暦を生きている。これから始まる話を聴く限り、引き続き彼女は”ともだち”や友民党の裏の動きを探っている様子だ。

 カンナが「市原さん...」と反応しているのに対し、オッチョは「弁護士...」である。私も仕事の関係で何十人という弁護士と接してきたが、弁護士に向かって「弁護士」と呼びかける人を見たことも聞いたこともない。まあ、オッチョだから。市原さんも気にせず「はいはい、どうも」だけで久闊を叙す暇もない様子。


 それにしてもだ。テロリスト”ケンヂ一派”のうち、男性軍はオッチョの懲役300年という過酷な刑罰を筆頭に、みんな散々な目にあってきたのに対し、ユキジは天下堂々と柔道場を開いているし、20世紀の昔から被害者の会を支援する等々、チョーさんやドンキーやモンちゃんに負けず劣らず警戒べき相手であるはずの市原弁護士が、事務所の盗聴程度で済んでいるというのも妙な話だ。

 ”ともだち”はフェミニストか? ユキジだけならモンちゃんがいうところの「みんなおまえが好きだった」の「おまえ」に、フクベエと今の”ともだち”も含まれていたという強引な想像もできるが(男は昔、好きだった女はいつまでも好きなのだ)、市原弁護士もそうなのだろうか...。旦那をイチコロにするほどのフェロモンをお持ちであるとご自身は仰ってはいたが。


 ユキジがみんなにキリコの写真を見せたばかりという段階であることを確認すると、市原弁護士は長髪と同じような口調で「時は2015年」と演説を始めている。場所はアメリカと聞いてカンナは不審そうだが、次に話題になるミシガンのMCG製薬の工場火災なら読者は知っている。ケロヨン親子がニュースをテレビで観ていた火事だ。

 市原さんによると「公式発表」では、この工場では同年に世界に広まったウィルスに抗するワクチンの製造を行っていたが、火災はテロリストの破壊工作だったことになっている。そのテロリストは今、彼女の目の前に顔を揃えているのだが、「んなわけないよね」というのが市原弁護士の結論であり、またしても”ともだち”の自作自演であると彼女はいう。


 法律家には証拠が必要であろう。それを基に仮説を組み立てる。証拠その1、工場が炎上した直後に”ともだち”はワクチンの完成を宣言し、それを「せいぼがこうりん」したと表現した。その報道はサナエが地下鉄廃線の宙吊り広告で目撃している。カンナは写真を見ながら「お母さん」と言った。彼女は「聖母」とは誰か、校長からすでに聞いているのだ。

 次は仮説の出番で、「あたしはこう睨んだの」と弁護士は語る。すなわちワクチンの製造は事実だが、”ともだち”は聖母キリコの計画を阻止して彼女を拉致した。証拠その2を求めて、弁護士は(今と同じなら)港区にある入国管理局に行った。アメリカから東京に連れ戻したなら、書類がここを通過した可能性がある。まともに手続きをしたならばだが。


 入管は「渡航禁止令」の下で廃墟のようであったという。国内の異動が禁止されていたばかりでなく鎖国状態なわけだ。無力な人間が力があると見せかけようとするとき、人をコントロールしたがるのはいつでもどこでも同じで、さらに人を動かすよりは、人を拘束するほうが楽なのである。

 市原弁護士は”せいぼこうりん”宣言の「直前の入国者」に目をつけた。鋭い。相当量のワクチンとキリコの身柄をしっかりと確保するまでは、降臨宣言などできないもんね。そして、検索したらキリコの名前はちゃんとあった。真正面から攻めてみた「離散家族連絡課」のほこりをかぶったコンピュータから出て来たのだ。

 ”ともだち”が強引に東京を壁で囲ったため、家族や友同士が壁の外と内に離れ離れになったという話がこれまで幾つか出て来た。たまたま海外にいた人も同様であろう。そういう離散の状況を入管で管理しているらしい。キリコも多分ケロヨン親子も、まともな入国手続きを経て日本に戻ったらしい。そうしなければ記録がなくて降臨とは呼び難く、拉致そのものになってしまうものなあ。つづく。




(この稿おわり)




窓の下には神田川 (水道橋より、2013年3月7日撮影)































.