おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

敵前逃亡の罰則 (20世紀少年 第626回)

 ケンヂとオッチョの人物評として最も的確と思われるのは、さすが付き合いの長いモンちゃんが血の大みそかの日にユキジに伝えた怒りの発言であろう。「ケンヂはいつだって何も考えないで動き出す」。「オッチョはオッチョで、何でも自分ひとりでできると思ってやがる」。

 全くガキの頃のまんまだと戦闘中にあきれているモンちゃんとユキジだが、それから十数年たっても相変わらずの二人であった。七人が集まってさあこれからというときなのに、ケンヂは「とりあえず街下りて、メシでも食おうや」と緊張感に欠ける提案をしている。


 幸いスペードの市も「腹が減っては何とやらか」と同調し、団結式も悪くないと他の者も異論がなかったのでメシにすることになった。街に下りてみると、そこは昔と変わらない日本の街並みであった。関所の外と東京の中だけが昭和の大昔なのだろうか。変なの。

 誰かがここは熊谷じゃねえかと言っている。関東に住んだことのない方もこの地方都市の名はご存じなのではなかろうか。日本で一番、暑い土地なのだ。私は長瀞に遊びに行くたび、ここで電車を乗り換える。埼玉県の北部にあり中山道の宿場町だった。

 
 描かれている「南本町商店街」も熊谷市に実在し、これとそっくりの看板もある(下の店の名前は違うようだが)。なぜ知っているかというとネットに写真があったからだ。今はなんでも手軽に知ることができる。そして手軽に忘れる。

 さて、ケンヂ一行は「まんぷく食堂」という実に良い名の店を選び、世界を変える漫画の執筆に夢中の氏木氏を除く6人は、定食ものをいただいている。「どういう作戦でいく?」と付き合いの浅いスペードの市は真面目にケンヂに尋ねたが、もちろん返事はない。


 他の連中は反政府組織との連携、武装蜂起の提案、鍵開けなら私にお任せをなどと各自の持論を展開し、片やスペードの市はナイフを取り出して、相当血が流れる覚悟をしとかにゃなどとうそぶいている。

 作戦会議にしては声が大き過ぎた。店のおばさんがお茶を持ってきながら、「あんたたち、あの城つぶす相談かい?」と訊いてきた。沈黙する一同であったが、おばさんは「頼むよ、やっとくれ」と仲間なのであった。金はないけど米はあると支援方針まで公表している。


 その場をそっと抜け出したスペードの市が公衆電話をかけている。相手は病院で、妹さんは無事、入院したらしい。じきに見舞いに行きますと言う市の目に涙が光る。その声が聞こえているはずのケンヂは無表情だが、内心、こいつを死なすわけにはいかねえと思っていたに違いない。

 まんぷく食堂のおばちゃんは、「敵前逃亡したら、一生皿洗いさせるからね」と威勢が良い。まんぷく食べて大騒ぎして、疲れたみんなは寝入ってしまった。スぺードの市がふと気が付くとケンヂがいない。敵に一人で立ち向かうが好きな人であるのを知らなかったのだ。



(この稿おわり)




近所にて。マス大山の流れである。 (2013年2月4日撮影)



















































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