第19巻第39ページ。通行手形の店から出てきた男が、小型トラックで去っていく。女は関所に向かったようだという。将平君は急ぐ旅だから（そうも見えないが）、早く作ってもらおうと乗り気だが、ケンヂは「やめといたほうがいいよ」と言う女の様子に何か気になるものを感じたようで、ちょっと見にいこうと言い残して、バイクでトラックを追いかけた。
関東軍の関所は、将平君がいた北の検問所より大規模で凄いそうだ。しかし様子がおかしい。銃を突き付けられたか、トラックの男は両手を挙げている。そして、いきなり関所の2階部分にいたヘルメット姿の者に拳銃で撃たれてしまう。驚く将平君、無言のケンヂ。
道端から「あーあ、また仕事か」という間延びした声が聞こえてきて、カンナに親切にしてくれたオデオン座のじいちゃんと少し似たご老人が姿を現した。彼によると、偽造の通行手形でみんな「あーなっちまう」らしい。そして彼がここに埋める。
老人の顔が向いている方向を見て、「よくねえな...」とケンヂは言った。かつてケロヨン親子がニューメキシコで見たのと同様のすさんだ光景が広がっている。何十もの粗末な木の慕柱。「実によくねえ」とケンヂはまた言った。このセリフは私の口癖になっている（ただし、なぜか独り言で使うようにしている）。
通行手形の現物（というか偽物）の絵がその次のページに描かれている。顔写真のほかは紙幣と同じようなデザインだ。どこをどのようにして真贋を判定するのか不明である。男性客が不安そうに手にしているが、テリー伊藤似の店主は「うちのはゴールドカードだ」とか「嫌なら返せ」とか強気である。
値段は「五万友路でござい」。友路の貨幣価値を推測し得る情報は、全巻を通じて一か所しかない。第16集でカツオが買ったジュースが80ユーロであった。さっそく彼がラッパ飲みしているジュースの容器は、昔のコカコーラやミリンダのビンと同じような形状である。60年代は80円ぐらいだったかな。よく覚えていないが、そうだとすると友路と円の交換レートは対等に近いか。命を賭けた数万円か。
客の男はなお不安そうだが、どうしても東京に帰りたいらしい。後に本人が、妻子を東京に残して自分だけ施設に入れられたと語っている。しかし代金を支払って店を出た途端、カウ・ボーイ風の大男に、見せてみろと言われて差し出した手形を取り上げられてしまった。でも一応は命拾いしたようだ。カウ・ボーイ風の男は店主に大きなナイフを突きつけて、ヤクザ者たちを黙らせ五万友路を取り戻してくれた。
この大男は店主によると「スペードの市」という通り名で有名人らしい。容貌と服装のモデルは、たぶん間違いなくスタン・ハンセンだろう。ヤクザらは「スペードの」という古風な業界用語で呼んでいる。なぜスペードなのか最後まで分からない。「市」と「一」を掛けてあるならば、スペードのエースということになる。
トランプ遊びは子供のころ、大人と子供が屋内で一緒に遊ぶときの定番であった。親戚の人数が多かった母方の実家では、一時期、日曜日ごとに集まって10人ぐらいでポーカーをやっていた。カンナがカジノで使ったようなラスベガス風のトークンなどないから、替りに使っていたのはマッチ棒。先が丸くて赤いやつ。
ポーカーはハートが一番強いが、その後覚えたナポレオンはスペード、コントラクト・ブリッジはクラブが一番強い。特にナポレオンでは、スペードのエースはオールマイティという、多くのカード遊びではジョーカーに与えられる特別扱いがある。もうナポレオンもブリッジもルールを忘れてしまった。もう今では七並べと神経衰弱ぐらいしかできない。小学生並みに退化したなー。
一難去ってまた一難。傷心の男に向かって、スペードの市は関所を通らずに壁の向こうに行ける方法があるという。早速、話に載ってしまったお客さんは、五万友路を没収されたうえに、さらに三万払わされた。あと一席だけ残っているという。仮に事実だったとしても、悪徳商法の典型的な営業トークであろう。
スペードの市の手段はバスを使うらしい。マイクロバスの横っ腹に「adios」と書いてある。おなじみ西語で「さよなら」だ。最後の客を載せて去りゆくアディオス号に向かって、市はニヤニヤしながら「アディオス」と別れの挨拶をしている。またしても嫌な予感がする。
（この稿おわり）
書の大家の名前。高校の歴史の教科書に載っていました。とうとう覚えられなかったこの漢字。
（2013年1月9日撮影）
僕が照れるから 誰も見ていない道を
寄り添い歩ける寒い日が 君は好きだった
オフコース 「さよなら」
ハートのエースが出てこない
ハートのエースが出てこない
やめられない このままじゃ
キャンディーズ 「ハートのエースが出てこない」
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