おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

ヒーロー (20世紀少年 第561回)

 ここのところ重苦しい場面の連続だったので、新章に移る前に一休み。週刊文春の読者のみなさんはご存じのとおり、柳家喬太郎師匠の「川柳のらりくらり」という連載がある。何週間か前のお題が「ヒーロー」で、懐かしくもあり、「20世紀少年」的でもあったので幾つか引用します。

 著作権に違反するのかもしれないが、雑誌は基本的に読み捨てられてしまうものであることを考えると、こうして記録に残すぐらいは許して頂ける範囲でしょう、きっと。いつもは六十代、七十代の投稿が多いのだが、さすがヒーロー物が対象とあって私の同年代が多く、いつもと比べて平均年齢を下げている。


 冒頭の句も私と同じ年の男のかたで、「出動!!と言って出かける癖がある」というのも時代を感じさせるが、同じ作者の「カレースプーン掲げる癖がまだ取れず」というのは解説が要るだろう。絵切りカットの達人(本当にすごいのだ)、林家二楽さんのコメント、「ウルトラマンの、スカイドンの回だ」が嬉しい。

 ウルトラマンはいつも大真面目で受け狙いをするような番組ではなかったのだが、どうしたことかスカイドンの回だけはギャグが出てくる。先の句は、事に慌てたハヤタ隊員が「手にしたカプセル」のつもりで、直前まで食事中に使っていたスプーンを誤って天高く掲げてしまった古事に由来する。


 「腕時計僕は今でもロボを呼ぶ」。ジャイアント・ロボは腕時計スタイルの音声信号装置により、少年から立てとか進めとか命令口調で動かされるロボットである。腕時計は残念ながら「20世紀少年」には採用されておらず、ライバル鉄人28号のリモコンの後塵を拝している。

 「平成に風呂敷マントの変わった子」。マントといえば、私の場合はパーマンであるが、漫画関連となると何と言ってもナショナル・キッドである。なぜマントだけで、空を飛べるのだろう? 「ヒーローと言われ戦犯とも言われ」。ケンヂ的である。幸い彼の場合、順番は「戦犯」が先で、「ヒーロー」で終わった。


 「悪いけど4番サードは俺だから」。これはショーグン。もしかしたら、海ほたる刑務所で本当にこう主張したかもしれない。最後に、すこし物悲しい響きがあるが、これはサダキヨに捧げる。「路地裏の月光仮面をよく泣かし」。さて。第17集第8話「最果ての警察官」は、冒頭に久しぶりに少年時代の描写が出てくる。

 どうやらコンチの銀玉鉄砲により、ケンヂは射殺された模様。「どうだ、まいったか」と勝ち誇っているのはケロヨンだが、ケンヂは卑怯にも「私は死にました」を10回唱えるという復活の儀式(”ともだち”もマネしていました)を無視。どちらかというと悪人がよく使うと思うのだが、「ふっふっふ」という人を小馬鹿にしたような笑い声を含んで立ち上がり、「正義は死なないのだ」と宣言している。


 ケンヂは刀を背負っている。首吊り坂の夜にコンチも担いだ。こういうセルロイドの刀やお面は、近所の祭りの夜に屋台で「今日だけのお小遣い50円」でときどき買ったものだな。今の家の近くでも祭りはけっこう多いのだが、もはや刀やお面は売っていない。売っているのは食い物ばかりで、おもちゃは家にふんだんにあるからだろう。

 コンチとケロヨンも激怒し、ケロヨン隊長は「蛙帝国の逆襲だ」と宣戦布告したが、ケンヂは「望むところだ」と勇敢であり、坂を駆け上がりながら「絶対この世を悪から守ってみせる」と高らかに叫んだ。蛙帝国が自ら悪を名乗った形跡はないのだけれど...。なお、この勝負の結果は描かれていない。


 この場面はおそらく第1集と同様、1968年の小学校3年生時代だと思われる。このころからすでにケンヂは正義の味方にあこがれていたらしい。翌年の原っぱの秘密基地はかくしてケンヂの願望と、たぶんオッチョの頭脳により建設されるに至ったものに違いない。

 時代はともだち歴3年に戻る。139ページ目。きちんと整備されているとは言い難い片側一車線の舗装道路が、荒野の中を真っ直ぐ先に向かって伸びている。古ぼけた電信柱や遠くの山の景色からして、表紙絵のケンヂ少年が「正義は死なないのだ。」言いながら悪と対峙しているのと同じ道であろう。




(この項おわり)



一峰大二さんは今の私と同じ区のご出身。



 One day you're a hero
 Next day you're a clown
 There's nothing that is in between
 Now you're a 21st century man

 You stepped out of a dream
 Believing everything was gone
 Return with what you've learned
 They'll kiss the ground you walk upon

          ”21st Century Man” 
          Performed by Electric Light Orchestra



 ある日の貴方はヒーロー
 次の日には笑いもの
 同じ貴方なのに
 そして今 貴方は21世紀の男

 全てを失ったと信じこんで
 貴方は夢を追うのを諦めた
 知恵を得た今こそ 
 貴方に戻ってきてほしい
 貴方が歩む大地を
 人々は祝福するだろう

 
                ELO 「20世紀おじさん」 1981年

































































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