おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

ケンヂのギター遍歴  (20世紀少年 第271回)

 ケンヂはその半生において様々なギターを演奏している。主な歴史は次のとおり。(1)ほうきギター時代。(2)痛恨のクラシック・ギター。(3)中学生のとき姉ちゃんに買ってもらって以降、バンド時代まではエレクトリック・ギター。(4)20世紀末のフォーク・ギター。(5)ともだち暦3年もフォーク・ギター。(6)例外的に万博会場のコンサートはエレキ。


 ケンヂや私が十代のころは、エア・ギターという技はなかった(あるいは、海外にはあったかもしれないが、日本には輸入されていなかったと思う)。このため、彼は教室の掃除用のほうきで代用している。初出は第1巻、1972年の掃除時間に、おそらく前のページでオッチョに教わった、ジャンピング・ジャック・フラッシュを演奏している。

 女子に「ケンヂ君、バカやってないで、ちゃんと掃除しなさいよ」と叱られているが(そうそう、中学、高校と進むにつれて、だんだんと呼び捨てにしてもらえなくなるのだ)、構わずバカを続けていたところ、山口に笑われて掃き掃除をしている。だが、ほうきギターの圧巻は、翌1973年の放送室乗っ取り事件であろう。


 このときのケンヂの雄姿は、第7巻第11話の冒頭に見開きで描かれている。ケンヂが「俺は無敵だった」と語りかけている相手は、巨大ロボットに向かって走るトラックを運転中のマルオだが、彼は昼飯を食うのに夢中で「20世紀少年」を聴いていなかったらしい。マルオも同じ中学校にいたのだな。

 これと同じ絵は第11巻において、ケンヂがカンナに成分表示の話をするときにも出てくるし、また、第13巻でダニー少年の口からキリコと「20世紀少年」のエピソードを聞いたケロヨンが、ケンヂを想起する場面にも出てくる。これを覚えているところをみると、ケロヨンも同じ中学校にいたのだな。


 ところで、この絵のほうきギターは、どこで弾いているのだろうか。第7巻では、「あの曲が鳴り響いている間」と書かれているので、放送室の中だろう。第21巻に、放送室に向かうケンヂをヨシツネが止めようとし、ユキジがバカは放っておけと言っているシーンがあるが、ケンヂはほうきを持っている様子がないから、放送室のほうきであろう。

 このあと縛り上げた放送部員の女の子を解放して(したと思う...)、バーチャル・アトラクションのこの場面を信ずるならば、ケンヂは屋上に向かっている。「21世紀少年」下巻の187ページには、その途中の階段で出会った(待ち伏せたか?)ユキジに向かって、「聴いたか今の!」と威張った上で、遠回しに口説いているのだが効果なし。

 そして、ケンヂはふてくされて、ほうきとレコードを放り出し屋上に寝転がった。屋上に上がればトランジスタ・ラジオにも、「ベイエリアから、リバプールから、このアンテナがキャッチしたナンバー」が聴こえてくる。身投げを断念して命拾いしたカツマタ君が声をかけてくるのだが、ユキジに袖にされた直後でなければ、もう少しケンヂは機嫌が良かったかもしれない。


 前後するが山口に笑われたケンヂは、4か月ためた小遣い4千円(一月千円か。そんなもんだったかな、当時は)で、念願のマイ・ギターを購入したのだが、そうとは知らず買ったギターがクラシックだったため、また山口に笑われている。

 「21世紀少年」の上巻に、ケンヂがギターを弾きながら、あらためてユキジを映画のデートに誘おうとしている場面が出てくるのだが、このギターもピック・ガードがついていないので、同じクラシック・ギターだろう。ここではユキジが、「好きなんじゃないの、山口さん」と言って口論になっている。どうも山口は鬼門だな。


 エレクトリック・ギターは、姉ちゃんが買ってくれたのが第1号。ただし、キリコはアンプを買ってくれた形跡がない。1997年にドンキーの最後の手紙を読んだ夜、ケンヂはこのギターを弾いているが、このときはちゃんとアンプがあって、近所迷惑となった。このアンプも火事の際、おそらくギターと同じ運命をたどったのだろう。

 大学時代やバンド時代のエレキ・ギターは、基本的に黒っぽくて同じ機種に見えるものだが、第13巻、バンド時代の終わりごろかもしれない放送事故の場面では、別のギターを弾いている。遠藤カンナ主催の万博会場のライブでは、また黒いのに持ち替えている。


 フォーク・ギターは、2000年に登場、「ボブ・レノン」を生んだ。血の大みそかで、このギターがどうなったのかは分からないが、第5巻で常盤荘のカンナの部屋に立てかけてあるのは、もしかしたら、これかもしれない。ともだち暦3年には、どこで買ったか、フォーク・ギターを持った渡り鳥となって再登場する。

 これを持てば無敵になるのがケンヂのギターだから、「21世紀少年」下巻の最後、ユキジに念願の思いを伝えるときも、もちろんギターを抱えている。中学のときは失敗の連続であった。さて、このときは、どうなったことか...。


 私の好きなケンヂのギター姿は、放送室の絵の他に二つある。一つは第3巻の表紙絵に描かれているコンビニ店長姿の、ほうきギターの熱演。赤ん坊のカンナが背中でご機嫌である。おそらく店内清掃中に、十代ころの情熱が蘇ったに違いない。

 もう一つは、これが一番のお気に入りなのだが、第10巻の第2話、「クロスロード」の冒頭にてアコースティック・ギターを爪弾くケンヂ、おそらく2000年の一番街商店街。ここでは歌っていないし、いつになく神妙な表情を浮かべているのは、ロバート・ジョンソンに思いを馳せているからだろう。


(この稿おわり)



楽器 ♪



雪だるまは昔、雪仏とも言った。ご近所の雪仏は、左手がホウキです。
(2012年1月26日撮影)