おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

バトルロイヤル (20世紀少年 第549回)

 今回のタイトルは、「バトル・ロワイアル」の誤記ではありません。元になったフランス語は同じ。日本語の発音表記が異なるだけで、意味するところは似たようなものだ。小説・映画の「バトル・ロワイアル」は、最後の一人まで殺し合うという大変、物騒な設定である。

 他方、プロレス用語のバトルロイヤルは、大勢でリングに上がって、最後の一人まで(ドッヂボールのようにチーム分けするときは、敵の最後の一人が倒されるまで)、相手かまわず戦い合うという、ちょっと他の格闘技ではありえないプロレスならではのお祭り騒ぎである。一度だけテレビで見た覚えがあるが、とにかく馬鹿らしくて楽しい。


 映画「バトル・ロワイアル」は、深作欣二監督の晩年の作品である。もう亡くなって10年か。私にとって日本を代表する映画監督といえば、クロサワでもオヅでもなく、山田洋次でも北野武でも宮崎駿でもなく、断然、深作である。彼は多作だったので、その中で私が観た映画の感想を簡潔に書くだけでも、ブログ3回分ぐらいの紙面が必要になりそうだ。

 小中学校のころ怪獣映画や日活ロマンポルノとならんで、邦画界をにぎわせたジャンルにヤクザ映画がある。暴対法ができたからだろうか、今では暴力団を顕彰するような映画も作れないのか、すっかり下火になっている様子。現実の世界では許されないことも、フィクションなら扱ってもよいと思うのだが、今では客が来ないかなあ...。


 興味あるお方はお暇なときにでも、主なヤクザ映画に出演した俳優のリストでもご覧になっていただきたい。大雑把にいえば、私の世代が観てきた映画や大河ドラマなどにおいて、監督はポルノが、役者は任侠ものが育てたといっても大きな間違いではないくらいの顔ぶれが並んでいる。

 深作さんの代表作「仁義なき戦い」はシリーズ全部を観たが、私は第2作がお気に入り。北大路欣也が孤独な殺し屋を演じた作品だ。若い方々は主演の文ちゃんこと菅原文太北大路欣也をご存じだろうか。北大路さんは今、携帯電話のコマーシャルで白い犬の声優をしてみえる。私にとって坂本龍馬とえいば、福山ではなくて北大路である。菅原文太は、やや最近では「わたしのグランパ」とか、釜爺とか。


 大学生や若き社会人だった1980年代の前半、私は小さな劇場にかかっている演劇を観るのが好きだった。大規模な商業演劇が本格的に始まったのは、たぶん社会人1年目にスタートした劇団四季の「キャッツ」ではなかろうか。私はそれも観たが、一番強く印象に残っているのは、学生時代に超満員の会場で、通路の階段に新聞紙を敷き、この上に座って観た「熱海殺人事件」、つかこうへい劇団である。

 あの演劇で主役級を務めた3人の男優のうち、申し訳ないが一人は名前を失念してしまった。しかし残りの二人は間もなく出演した映画が大ヒットになり、今でも俳優として活躍しているのでよく覚えています。風間杜夫平田満。その映画の名は「蒲田行進曲」。監督はもちろん深作欣二


 銀ちゃんとヤスの大活躍は、ここでクドクド書くまでもあるまい。松坂慶子はこれが最高傑作ではないか。私は大河の「国盗り物語」でお濃役の彼女をみたとき、この世にこんな綺麗な女がいるのかと驚嘆したもんだ。ご本人も自分が若かった頃の美しさは遠慮なく認めていて、あのころは「私の前世」と呼んでいますと雑誌のインタビューで語っておられる。北大路の白い犬とケータイのCMで共演した実績もある。

 脇役も充実していて、八代のお母さん清川虹子の瞳だけの演技。坂本龍馬役の原田大二郎も元気で、福山ファンには悪いが、北大路の次は原田だな。蟹江敬三の監督も文句なしに可笑しい。蟹江さんもヤクザ映画の悪役で世に出た人で、「何人、強姦したか覚えてない」(もちろん、作品で)と言っておられたのを覚えている。


 最後に元に戻って「バトル・ロワイアル」、大勢の若い俳優がここから巣立っていった。その名は一々ここで申すまでもなかろう。ビートたけしの心の乾ききった教師役も、この人を措いてほかになし。私は安藤政信の眼差しが好きで、彼が先輩役として出てくるのも嬉しい。最近あまり見かけないようだが元気だろうか。

 持ち前の空想癖をかつぎ出せば、映画「20世紀少年」のメガホンを深作がとったらどうなるかと考える。きっと、オッチョやユキジの格闘場面が増えるはずで、ケンヂも切れ味鋭いキャラクターになりそうだ。原作のイジメやインフェリオリティー・コンプレックスを取り扱った精細な部分は吹っ飛んでしまうかもしれないが。神様役は蟹江敬三で決まり。

 第16集の第5話に戻ろう。「絶望の始まり」という重たいタイトルがついている。時はともだち暦元年、心ならずも、オッチョがバトルロイヤルに巻き込まれる事件が起きる。



(この項おわり)



すっかり色づいた我が家のツタの葉 (2012年10月23日)






















































.