おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

蝶野隊長は銃を取った (20世紀少年 第851回)

 確かもう二三十年も前に読んだ文章について。ドキュメンタリーなのかフィクションなのかすら覚えていないし著者の名前も記憶にないが、内容はアカデミー脚本賞を獲った映画「ローマの休日」の脚本がどうやら名義貸しであったという噂が流れ、本当に書いた人物を追及するというようなものだった。

 その最後に正体が明らかになり、顔に深い皺が刻まれた男のスケッチと名前が出てくる。よりによってハリウッドから赤狩りで追放された人物だった。ダルトン・トランボアメリカが戦争を起こすたびに禁書になるという小説、”Johnny Got His Gun”の作者として知られる。


 日本でも翻訳され「ジョニーは戦場に行った」というタイトルで発売された。その当時の私はまだ中高生だったと思うが、学校でも話題になるほどの衝撃的な内容の本だった。実家に置いてあるが、気楽に読める小説ではない。本当に「ローマの休日」と同じ人の作品なのだろうか。

 ちなみに、「ローマの休日」の英語タイトル”Roman Holiday”は、詩人バイロンの「チャイルド・ハロルド」にも出てくる言葉だそうで、本来の語義はすさまじく、古代ローマ帝国の娯楽だった殺し合いのための奴隷戦士(グラディエーター)に与えられた休日から転じて、「人の苦しみから得る快楽」の比喩であるという。

 プリンセス・オードリーの映画は、この暗喩を踏まえてのものとは思えないが...。邦題にある「ローマの」は英語で「Roman」になっているので、ローマ市で休日を過ごしましたという意味より、ローマ風の休暇というニュアンスだろう。イタリアといえばアイスクリームだもんね。でも楽器で人を叩いてはいけない。


 ジョニーが叩いたのはモールス信号だった。だが、サダキヨはそれも叶わず、どちらのテレパシーなのか実はよく分からないのだがカンナと心で話した。カンナへの伝言は、反陽子ばくだんのリモコンの隠し場所だった。しかし国連軍は態度を改めず、出て行こうとする彼女を拘束し、サダキヨへの自白剤の投与を急ぐ。

 蝶野隊長は銃を取った。そして後ろからメイヤー中佐の首を締め上げて拳銃を突きつけ、「彼女をケンヂのところへ連れていけ」と叫ぶ。思い切ったね、隊長。軍隊や警察で上官にこんなことをしたら即刻クビだろう。かつてヨシツネも課長に辞表をたたきつけたが、こっちの方が派手だ。泉下のチョーさんも喜んだろう。


 誰よりも驚いているようにみえるのは、これまで自称・伝説の刑事候補が緊急事態において情けない失態ばかり繰り返してきたのを散々見てきたカンナであった。蝶野(無職になったので、敬意をこめて呼び捨てにしようか)は中佐を盾にして、早く車を用意しろと占領軍に命じている。

 この忙しいときに来客があった。カンナと呼ばれて振り向けば、人相風体の良くないのが四人。カンナのおじちゃん達で、マルオにケロヨンにオッチョにヨシツネ。カンナは「こいつら」がサダキヨに自白剤を打とうとしていると彼らに訴えた。


 連合軍の兵が一人、危険を察知したか「Freeze!!」と命じて闖入者たちに銃口を向けたのだが、あいにく先頭を歩いていたのはオッチョだった。兵士はこの男の危険度を知らなかったらしい。オッチョはライフルを持つ相手の右腕を肘で極め、殴って蹴って銃を取り上げた。てんで勝負にならん。オッチョは「動くな」と翻訳して立場は逆転した。

 「フリーズ」については前に話題にした。お祭り好きで多神教の日本では、クリスマスやバレンタインデーだけでは飽き足らなくなり、今やイースターやハロウィンまで騒ぐようになった。私はあの悲しい事件が忘れられず、街頭でハロウィンのカボチャを見ると腹が立つ。バトンルージュはフランス語で口紅。昔そのあたりに住んでいたチャロキー族が「赤い棒」という地名を付けたのに由来するらしい。


 さて。緊急時の運転手とくればマルオである。オッチョはマルオにカンナたちの送迎を任せた。蝶野は人質の中佐を連行し、マルオはカンナを伴って合計4人で廊下の向こうへ去っていく。

 火事と喧嘩は江戸の華だぜ。ケロヨンは事態を楽しんでいるようでもあり、国連軍に向かってサダキヨに手を出したら「ただじゃおかねえ」(そろそろUNも、この日本語を覚えたろう)と腕まくりしている。ヨシツネは通せんぼ。この二人がいなくてもオッチョ一人で充分な気もする。



(この稿おわり)






”Rome, by all means, Rome”   by Princess Ann

(2006年5月、ローマにて撮影)








 私は私の道を行く
 ともだちなら 
 そこのところ
 うまく伝えて

          「ジョニィへの伝言」   ペドロ&カプリシャス































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