おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

本官 (20世紀少年 第596回)

 初めて観た大島渚監督の映画は、たぶん学生時代の文化祭で「日本の夜と霧」だったと思う。白昼の報道で「愛のコリーダ」の内容と裁判沙汰を取り上げ辛いというのもあるだろうが、「戦場のメリークリスマス」が代表作の筆頭に挙げられたりすると、年配のファンには違和感があるだろうな。

 「愛のコリーダ」の題材になった阿部定事件は、拙宅の近所で起きている。実にどうでも良いが、阿部定とABCDは発音が似ている。彼女は長命し、私は子供のころに週刊誌で彼女がどこかの店で働いているのを写したスナップを見た覚えがある。


 大島監督は若いころ読売グループに頼まれて、ジャイアンツの練習風景を撮影したことがあったそうで、ご本人がインタビューでそのときの様子を語っておられた。巨人軍の選手は紳士たれと言われていた時代で、みんなすまし顔で練習しているため、なかなか面白い絵が撮れない。

 そんな中で若き日の長嶋茂雄は取材が入っているのに気が付くと、遠くから走っていてキャメラの前でズザザザとスライディングを決めてみせ、「大島さん、何でも言ってくださいね、何でもやりますから。」と笑って去って行ったらしい。長嶋をみてファンにならない人はいないだろうと大島さんは語っていた。合掌。このブログは合掌ばかりだ。


 さて。爆発音に驚くオッチョとカンナの物語の続きは、歌を歌いながら北の検問所を単騎突破せんとするケンヂの行動と交互に描かれている。傷だらけで杖にすがって歩いてきたカンナの部下の青年は、奴らは無抵抗のみんなを撃った、残った者も連行されたという悲惨な報告をもらたした。

 アジトに戻ろうとするカンナと引き留めようとするオッチョの上空にヘリコプターが飛来している。空から「我々は地球防衛軍である」という声が落ちてきた。地球を守るためなら無抵抗の人間を殺す組織である。ヘリは「氷の女王に告ぐ」と繰り返す。告げた内容とは、やむなく一緒にアジトに戻ったオッチョによると「仲間を助けたければ24時間以内に投降せよ」というものだった。


 ここでまた二人の言い争いが始まる。緊急事態の連続だから仕方がないのだけれど、この二人はかなり相性が悪いのではないか。考え方が違うだけではなくて、相手の口のきき方まで気に入らないらしい。まあ、これだけ率直に言い合いできるのも、信頼関係があるからかもしれないが。

 カンナが取り乱すのも無理はない。血の大みそかの夜、ケンヂたちの飛び道具といえばオッチョが新宿でボラれて買った拳銃だけだったが、カンナたちは一体どこで調達したのか知らないが、突撃用戦闘銃をごっそり仕入れていたのだ。

 しかしアジトに残った男たちはリーダーの武装蜂起中止命令を忠実に守り、サナエとカツオを守った男のように無抵抗で投降し銃殺されたのだろう。それだけではなく、アジトの破壊のされ方からして爆発物も使われたに違いない。


 これに対しオッチョは比較的、冷静で、”ともだち”の口車に乗るなとか、奴が約束を守るような人間かと諭している。それでもカンナが頑固なのをみて、オッチョは奇妙なことを言い出した。「どうも気に食わんのだ」という。スパイを通じて氷の女王一派の動向は筒抜けになっていたのに、なぜ今になって急襲し、カンナに出頭命令が下されたのか?

 何かがおかしいと訝るオッチョであったが、時すでに遅し、しまったと気付いたときには武装集団に包囲されていたのである。「我々は親衛隊である」と一人が言った。妙な話である。ヘリコプターは地球防衛軍と名乗った。アジトを襲撃したのも、凶暴さと話の展開からして彼らだろう。だが、別の部隊がお出迎えで、「ご同行願いたい」と言っている。


 第18集の149ページ目に「ご同行」とは言い難い姿でオッチョとカンナが歩かされている。おそらく後ろ手に手錠をはめられており、目は黒いアイマスクで覆われている。どういうふうに顔にひっつくのであろうか。このアイマスクの形状は、私に「天才バカボン」の登場人物、「本官」を連想させる。あの目ん玉つながり。

 私にとっての天才バカボンの可笑しさとは、何と言ってもバカボンのパパ、本官、レレレのおじさんの3人の絡みである。3人とも大真面目なのだが、徹底して話が合わない。たいていパパがバカさで勝ち逃げし、レレレのおじさんは困惑したまま取り残されてしまい、怒りの本官は空に向かって拳銃を撃ちまくるのだが手遅れ。


 カンナが「みんなは?」と訊いた。親友隊の一人が、「死亡が確認されたのは48人。残りは連行された」と答えている。アジトはあちこちにあったそうだが、おそらく主力だったはずのカンナのアジトでも、絵で見る限り二三十人ぐらいではないか。ほとんど全滅だろう。カンナが唇を噛む。ついさっきまで陽気に働いていた若者たちであった。

 廊下でアイマスクを外され、招き入れられた部屋に一人座っていたのは何と万丈目であった。カンナは初対面ではなかろうか。オッチョも話をしたのは、たぶんバンコク郊外のバス停前以来のことではないか。「よく来てくれた」と万丈目は殊勝な挨拶をしているが、明らかに憔悴が激しく立ち上がる元気もない様子。

 続けて「かけたまえ、君らに話がある」と万丈目は言った。人にものを頼むときの態度ではないが、それに加えて、とんでもない頼みごとだったのだ。「”ともだち”を殺したい」と万丈目は言った。その顔にはもはや死相と呼んでも差支えないほど枯れ果てた表情がこびりついており、右手の甲に静脈が浮き出ている。どうした、何があった。



(この稿おわり)





ちょっと見えにくいがコイの左奥にカメが泳いでいる。正月から亀さん、今年は縁起が良いぞ。
(2013年1月1日撮影)












































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