第16集の30ページ目に、大阪万博のパビリオンなどが幾つか描かれている。私の記憶に残っているのは、右上の「太陽の塔」と左下の「ソ連館」、そして、開会式典の映像で見たような気がするだけだが、左上の風船の群れ。それ以外が何なのかについては、幸い、古書やネットで確認できました。
空飛ぶ風船の背景にある優雅な円錐形のオブジェがある建物は、「オーストラリア館」だそうだ。真ん中のユーモラスな顔のドームは「ガスパビリオン」、その右の救命用ボートを重ねたかのようなユニークなパビリオンは、「富士グループ」のものらしい。
ここに絵はないが、行列待ちの途中でヨシツネが倒れた「アメリカ館」は、技術的にも外見も東京ドームに似ているそうだ。上から見たそのデザインは、メロンパンのお姿を想像していただきたい。
次のページ、1970年のフクベエの部屋にある「これが万国博覧会だ オールカラー徹底ガイド」は、第7集の62ページ目に描かれているものと全く同じである。そのときはオッチョの提案で、4人の少年がそれぞれ行きたいパビリオンを書き挙げている最中であり、一応、私は万博の「パンフレット」と書いたのだが、実際にどんな資料だったのかは知らない。
他方、その下の段でサダキヨが読んでいるのは、雑誌「アサヒグラフ」の増刊、「日本万国博特集号」であることが見て取れる。これは古本屋で売っていたので買いました。今回ばかりは、意外と取材費がかかっている。発売当時の定価は380円だが、希少価値のせいか古書は千円を超えた。内容については面白いものがあったら改めて書きます。
唐突だが、今回のタイトル「カンナさん大成功です!」は、「白鳥麗子でございます」でお馴染みの漫画家、鈴木由美子の作品で、韓国と日本で映画化もされているらしい。鈴木さんは私と同い年で同郷だから、一方的に親しみを感じている。ここでは「カンナさん大成功です!」のストーリーには触れず、カンナさんという名前にこだわる。
遠藤カンナの名の謂れは、花の名前か、神無月(旧暦十月)の生まれか等々、好き放題に想像してきたのだが、猪熊柔のように誰もが納得するような材料がない。ところで、「カンナさん大成功です!」のヒロインは、「神無月カンナ」という、すごいお名前である。
なぜこういう名前にしたのかは鈴木さんに訊くほかないが、一方、私は私で自分と同年代である浦沢さんが、有名人の名前から採ったのかもしれないと思い、カンナという名の女優や歌手を思い出そうとしてきたのだが、年々衰え行く記憶力は働きが悪く、今のところ一人しか思い出せない。少し年上で子役時代から見てきた、神津カンナである。
鈴木さんも同年代である。神無月カンナと神津カンナは、字面がよく似ている。「カンナさん大成功です!」の連載開始はどうやら1997年、「20世紀少年」は1999年。これだけ状況証拠らしきものが集まれば、決定的というには不足であるが、何やら関係があるかもしれないなと、ここに書くぐらいは構わないでしょう。そうそう、ナナコさんも出てくるし。
もっとも、もしも浦沢さんが神津カンナをご存じないとなると、単なる妄想であるとのそしりを免れない。でも、多分ご存じだろうと思うのだ。両親も有名人だし、それに、サダキヨが手にしているアサヒグラフの135ページから始まる特集は、子供向けの万博案内で、「カンナとおさむのビックリ探検」という題である。
この「おさむ」とは、あの「黒猫のタンゴ」の皆川おさむ少年。「カンナ」は言うまでもなく、神津カンナである。この二人が万博会場を探検した記録なのだ。シンボルタワーの「太陽の塔」について、神津カンナは「バンパクの大仏さんですね」という感想を残している。なるほどね。
(この稿おわり)
栃尾又温泉 宝巌堂 (2012年8月8日撮影)
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