上巻の162ページ。じいちゃんが残した貴重なメモの話を聞いた蝶野刑事は、ヤマさんおじちゃんに尋ねている。そのメモにこそ、”ともだち”にすりかわった人物の名前が書かれていたのですねと。しかしヤマさんは反応が無く、しばし間を置いた後で「俺がなぜここまで生き延びたかわかるかね?」と逆に訊いてきた。
チーさんは「その先の人物→」とせっかく強調されているページをめくることなく、パタンとメモを閉じてしまった。読まなかった理由は「肝心なことを見ないように、いつも逃げてきたからだ」そうだ。その直前に知り過ぎた刑事を自分の手で殺めている。所属団体の粛清のルールをよくご存じなのだ。
若い刑事が静かに聴いているのをみて、ヤマさんは少し教訓がましいことを言いたくなったらしい。中高年の悪い癖だ。伝説の刑事になるのは「簡単だ」とヤマさんは言う。正義の味方になるのは簡単だとケンヂは言ったが、方法を教えてくれなかった。ヤマさんは端的に教えを垂れる。「俺の逆をやればいい」。「いつも逃げてはいけない=時には逃げてもよい」かな?
蝶野刑事は「違いますね」と言下に否定した。いわく「あなたは優秀な刑事だった」。なぜなら母から「あんなに努力する人間はいない」という、じいちゃんの口癖を聞いていたからだ。現役時代の長嶋と王の練習量の凄さは(それも人前で見せ分だけで充分に)、今も関係者の語り草になっているそうだ。
蝶野刑事は続けて「いつも逃げてきた」の否定に取り掛かっている。あの”ともだち府”が倒れた夜、回想シーンでは蝶野刑事がまだスリー・ナインのコスチュームで、親友隊に狙撃されたヤマさんを救助しつつ避難している。あのときヤマさんは自分を残して去れと言ったのだった。
少なくとも一度は逃げようとしなかったということで「あなたは本当に優秀な刑事だった」と蝶野刑事は結論を出している。情けは人のためならず。ヤマさんはうつむいてしまい、「しつこいよ、その落とし方」と言った。じいちゃん、そっくりだと彼はかつての先輩を思い出している。定年直前のチョーさんは単に同じ所轄の後輩だからという理由だけでヤマさんを選んだのではなかったのだ。
ヤマさんは蝶野刑事に敬礼した。しかし蝶野刑事は返礼せず、そのまま接見の部屋を出た。いくらすでに容疑者となり警察組織から離れているといっても、これは良くないと思う。映画「大脱走」などを思い出そう。古い映画を観ていると、敵対する将校同士の間でも、どんな意地悪な上司でも部下の敬礼を無視したりはしない。かつては蝶野刑事だって鼻ホクロの警官にその都度、敬礼を返していたではないか。
それにヤマさんのこの敬礼は、蝶野刑事のみに対してしたものではないだろう。この若い孫刑事の向こうに、チョーさんは本当の伝説の刑事を仰ぎ見ているに違いないのだ。今は捕らわれの身とはいえ元上司、祖父が見込んで大事を託した相手だ。蝶野刑事も徐々に良い男になってきたが、伝説になるのはもう少し先のような気もするよ。
面談室の外で待っていた部下から吉報あり、蝶野隊長が申請していた塔の内部の捜査令状が下りたらしい。一同は勇んで万博会場に赴いたのだが、どうも現場の様子がおかしい。内部で何か巨大なものが発見されたらしく、何と立ち入り禁止になっている。ヤマさんと問答しているうちに、寸での差で連合軍に合流するのが遅れたのだ。
蝶野隊長は連合軍のリーダーなのに、いちいち英語を通訳してもらっている。どうも今日の私は蝶野刑事に厳しい。部下は「どうします、隊長?」と即断を仰いでいるのだが、蝶野刑事は「どうするって...」とヨシツネ隊長と同じように悩んでいる。
そのとき蝶野刑事の脳裏に、先ほどヤマさんが口にした言葉、「サダキヨ...サダキヨの友達...」という祖父が書き残したメモの一部が蘇った。捜査の神チョーさんの成果はヤマさんの記憶を経て、次代の刑事に伝わったのであった。サダキヨが手がかりになるかもしれない。サダキヨの友達とは誰か。
蝶野刑事はカンナが入院中のサダキヨの看病にあたっている「何とか城南大学病院」に向かった。ここは大至急、直行すべき緊急事態ではないかと私は思うのだが、将平君は少し違う見解だったようで、まずタコ焼き屋さんに寄り、カンナにお土産を買っている。良い人なんだけどね。
(この稿おわり)
去年もアップしたような。実家近所のカモの群れ。
(2014年元旦、本年初の散歩中にて)
学校で何を習ったの 可愛いおチビちゃん
学校で何を習ったの 可愛いおチビちゃん
おまわりさんは僕の友達で
正義は決して滅びはしない
殺人したひと 罪で死ぬ
ときどき間違いあるけれど
学校で今日習ったよ そういうふうに習ったよ
「学校で何を習ったの」 高石友也
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