おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

セールスマン (20世紀少年 第466回)

 この秋どこかの映画館で、山田洋次監督の実写フィルムを一挙に公開するというニュースを聞きました。もう技師も機械も減りつつあって、間もなくデジタルだけになってしまうであろうその前にやろうということらしい。

 昔の映画のフィルムは、オープンリールの録音装置やアナログ写真のフィルムのように(こういう比喩自体が通じなくなるんだろうな)、巻物になっていた。古くなってくるとニューシネマ・パラダイスのようにフィルムが切れる。映画館内はせっかくの場面なのに、しばし沈黙に包まれ、明るいだけのスクリーンに暇つぶしの煙草から紫の煙がたゆたう。


 山田監督といえば当代きっての名監督であるが、畏れ多くも、私は彼のハート・ウォーミングな作風が苦手で、うまく言えないが背中のあたりが、かゆくなってくる。何作か観ての実感なので、仕方がない。ただし、寅さん映画は別格です。渥美清という役者の持つ何かが、上手くバランスを取っていたように思う。

 ストーリー展開でいえば、とらやの家族・親戚がウェットな雰囲気に包まれ始めると、寅さんはさっさとどこかへ出て行ってしまうので、おいちゃんたちも観客も感傷にひたっている暇もなく終わってしまうのだ。「ちょっと、待って。お兄ちゃん」という、さくらの声が聞こえてきそうだな。


 今や「男はつらいよ」の悪口を言う人はいないと思うが、大人気を博していたころは、やっかみも手伝ってか、映画評論家等の中には超マンネリだとか、あんな情けない男が男を代表して、あの程度のことで男は辛いなど嘆くとは余計なお世話だとか、いろいろ批判もあったのです。

 十代から二十代にかけての数年間、私は寅さんの新作がかかる度に映画館に足を運んだ。海外赴任でそれも途絶えたかと思いきや、ある年、ロサンゼルスの映画館で正月の一週間だけ「男はつらいよ」の上映をやってくれたのだから味な真似をするではないか。観客は私以外ほぼ全て、日系人のお爺ちゃんお婆ちゃんだった。みんなして笑った。


 この映画の主題歌は、二番の歌詞に「目方で男が売れるなら、こんな苦労も、こんな苦労もかけまいに、かけまいに」という一節がある。私が子供のころ、周囲の中高年は体重や物の重さのことを「目方」と呼んでいたのだ。今や、ほとんど全く聞かないな。ともあれ、キロ当たり幾らで男が落札されたら、さぞかしマルオには高値が付くに違いない。

 室別の寒風に、仲畑医師の診療所の窓ガラスが音を立てて震えている。マルオがガラス越しに外を見ながら、何でこのあたりばかりウィルスが広がるのだろうと言いながら考えあぐねていたところ、仲畑先生は「これ、変な噂なんですけど...」と妙な話を切り出した。


 地元の噂では、防毒マスクをつけたスーツ姿のセールスマンのような男が、アタッシュ・ケースを三つ抱えてやってきた。そして、ケースの一つをこの街に置き、北に向かって去って行ったのだという。

 そのあと、北方にある中根別町と雅之内町で(地名のモデルは中標津稚内かな。どちらも行きました)、ウィルスの被害が出た。それぞれ二日後と四日後の出来事であり、歩くとちょうどそのくらいの距離であるという。

 マルオの顔が怖い。そのことを警察には? と訊いたが、先生は防毒マスクにスーツ姿なんて、「そんな非科学的で滑稽な」とドンキーのようなことを言った。「奴らならやる」とマルオは確信している。かつて森園が室別事件の実行犯ではないかと推測したのだけれども、第15集170ページ目の絵は、ちょっと髪型が違うかなー。新巻鮭はこちらの男の手土産か?


 詳しくは後に出てくるので、ここでは簡単に触れるのみだが、セールスマンとアタッシュ・ケースにこだわったのはフクベエと山根であり、出典(?)は何の因果か万丈目であった。服部・山根の両名は、この時点ですでに鬼籍に入っているが、彼らの構想はそのまま引き継がれて実行に移されたらしい。そして、同じころアメリカで、ケロヨンも同じような結論にたどり着いている。

 ちなみに、「20世紀少年」は忍者ハットリくんのお面といい、ラブコメ漫画家のウジコウジオ氏といい、藤子不二雄作品(特にⒶのほう)の影響が幾つか見受けられるが、この実行犯の非科学的な服装も、たぶん「笑ゥせぇるすまん」を意識してのことではないかと思う。



(この稿おわり)




 日本の大使館でも使っている外交用語の一つに、アタッシェというフランス語の言葉がある。大使館付きの専門職のことで、彼らが好んで使ったらしいバッグのことをアタッシェ・ケースと読んだ。日本では私が子供のころから、アタッシュ・ケースと発音するのが普通。わたくし愛用のアタッシェ・ケースはドイツ製。
(2012年8月27日撮影)
























































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