前回のように、なぜ万博の開催地などにこだわったりするのかというと、「20世紀少年」がそもそも読み応えのある漫画であるのに加えて、私にとって幸運なことに、ケンヂやオッチョら主要登場人物が同世代であり、また主な舞台が東京とあって馴染みが深いので、細かいことまで気になるのです。
特に万博の会場やテーマパークなどは、物語の終盤に重要なロケーションになるわけだから、できるだけ具体的なイメージをつかんでおきたい。ただし、それは私の勝手な都合による勝手な推測の結果なのであって、他人様に押しつけるようなものではないです。
のちにカンナは、万博のメイン会場でのロック・フェスティバルを企画するにあたり、来場予定者数は50万人以上と述べて、エロイムのみんなをのけぞらせている。50万人収容可能というのは、どういう広さのか見当もつかないな。同規模のウッドストックも客席は映画の一画面にとうてい収まらなかった。しかも、パビリオン等もたくさん建てなければならない。こんな広大な敷地を、新たに都内で確保するのは容易ではない。
羽田空港は1997年に爆破されたことになっている。その跡地はどうか。2014年になっても、どうやら元・空港近辺は再開発予定地のままであり、電話ボックスが目立つほどの荒れ果てた空き地のままだ。万博会場の候補にはうってつけなのだが、この説の弱点は、脱獄したオッチョたちが見た建設工事中の万博会場が、ヨシツネの秘密基地近辺の絵に全く出てこないところ。決定打なし。
さて。万博の開幕式を迎える前に、物語は防毒マスクのセールスマンについての話題を採り上げている。その一つは、北海道の室別でマルオが、もう一つは、アメリカのミズーリ州でケロヨンたちが、期せずして入手した情報だ。セールスマン関連の情報そのものは手遅れだったが、マルオとケロヨンのその後の行動に影響を与え、やがて二人のドクターとともに合流することになる。
第15集で先に出てくるのは、マルオの動向についてである。第13集で彼は「北海道は俺に任せろ」と言って、ヨシツネ隊と別行動を取った。春波夫さんの慰問公演で同地に行く都合があったからである。シンディ・ローパーやレディー・ガガみたいに、春さんが寸暇を惜しんで避難所の体育館で慰問ショーを開催している間、マルオは雪に閉ざされた室別町を訪い、同地の仲畑医師に会った。
仲畑先生は、ヨシツネを超える泣き虫キャラクターである。若くて立派な医師なのだが、患者さんがウィルスでなすすべなく次々に死んでいく過酷な事実に耐え切れず涙を流して悔やみ、ここではマルオに励まされ、のちにはキリコに叱られることになる。マルオは彼に、「今にみんな分かってくれる」というのが口癖の、売れないバンドをやっていた古い友人の話をして先生を支えている。
この仲畑医師は、どうみても吉岡秀隆がモデルであろう。私は映画とスポーツ以外、民放は観ないので、テレビ・ドラマとかコマーシャルとかに全く疎い。芸能人をほとんど知らない。「北の国から」は一場面すら観ていない。吉岡と田中邦衛が出ていたらしいという知識しかない。
他方、「Dr.コトー診療所」は、ビッグ・コミックでは読んでいたが、テレビでは吉岡でドラマ化されたということしか知らず、こちらのドラマも全く観ていない。漫画は確かに吉岡らしい顔をした主人公であった。吉岡、吉岡と偉そうに呼んでいるが、実は下の名前を覚えていなくて、先ほどのフルネームもネットで調べて書きました。いつまでたっても私にとっては満男だからなー。
もっとも、今でも映画なら時には観るので、「鉄道員」、「半落ち」、「ゴールデンスランバー」で大人になった彼の演技を映画館で観た。日本一の役者になってくれい。何せ彼ほど、共演者と出演機会に恵まれた子役は、世界にもほとんど例がないと思う。
そんな吉岡の経歴からして、北の国で孤立した医師の役が漫画で必要となれば、おのずと顔が似てくるのは仕方がないのである。医師はマルオを連れて、吹雪の町に出た。念のため防毒マスクと防毒服で身を守っているが、さすがはMD、経験的にウィルスの生存期間が長くて1週間であることに気付いている。
山根のウィルスはキリコが驚愕するほどの強力な毒性を持っていたらしいが、寿命が1週間ではインフルエンザのウィルスと同程度である。この短命が、”ともだち”一派の人類滅亡計画の足をすくい、西暦は終わったらしいが意外と大勢、生き残ることになった一因となったのだろう。
マルオにお茶を入れながら、「だからお茶を飲んでも大丈夫です」と先生は言った。経口感染もするのだろうか。ここで先生が用意してマルオも使っている湯飲み茶わんは、第7集でヨシツネ隊長がコイズミに烏龍茶を飲ませながら、血の大みそかの夜、死にゆくサラリーマンに「最期の烏龍茶」をふるまった話をしたときに、コイズミが使っていたお茶碗と同じ模様である。
2014年から15年にかけて、全国レベルで流行したデザインであろうか。ついでに言うと、第20集の22ページにも出てくる。これは、ともだち歴3年のユキジの道場にある備品である。たぶん浦沢プロダクションの接客用の茶碗一式がモデルなのだろう。お茶碗はどうでも宜しい。仲畑医師は、「変な噂」について語り始めた。
(この稿おわり)
古風な文机(2012年8月10日、栃尾又温泉にて撮影)
なぜか車庫のシャッターにキリギリス。保護色を使っている。(2012年8月8日撮影)
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