第2巻にホームレスの神様が公園のベンチで、美味しそうに弁当をいただいている場面がある。「20世紀少年」には公園のシーンが幾つか出てくる。今回はストーリーから離れて、ケンヂたちが生まれ育った町の公園場面を楽しみます。
少年たちの集合場所には、他にも秘密基地やジジババの店などがあり、賑やかな場面が多いのだが、公園はやや陰影のあるシーンも少なくない。真っ先に思い出すのは、第7巻、ショーグンの思い出話に出てくる少年時代のケンヂとオッチョが公園で語り合うところ。ケンヂは万博に行けなくなったことを話す。
同じ町かどうか分からないが、第13巻の第6話には夜の公園が出てくる。おそらく、1990年前後、ドラマーのチャーリーが、ケンヂのバンドを辞めるにあたり、詫びをいれているところ。ケンヂが珍しく(大学時代のシーン以来か)煙草を吸っている。また、第9巻では冬の公園で、ユキジと市原弁護士がたこ焼きを食べている場面がある。
第20巻のキリコの回想では、中学生時代の彼女が公園のベンチに腰かけて本を読んでいる。同様のシーンは、「21世紀少年」の上巻にも出てくる。ここに登場するのは将来、彼女の夫になるフクベエと、同僚になる山根、意外と人懐こいサダキヨ、そして彼女が「あの子は誰?」と訝しむナショナルキッドのお面を付けた少年。
上巻の第4話「子供の始まり」に出てくる公園には、傷だらけのケンヂとユキジが出てくるのだが、これは第2巻でヤン坊マー坊に手ひどいイジメを受けているユキジを救いに来た「白馬に乗った王子様」のケンヂが返り討ちに遭ったところだ。ケンヂを殴り倒して立ち去ったユキジは、帰路、彼の姉キリコに会って怪我の手当をしてもらっている。
バーチャル・リアリティー(VA)の中にも出てくる。第14巻ではコイズミとともにVAに入ったヨシツネが、滑り台などを見て、あまりに昔の風景そのままなので「すごい」と驚いている。その少し後に、おそらく同じ公園でヨシツネは顔を洗っている。冷たいものがほしいというコイズミに、ヨシツネは水を飲めと冷たい。
コイズミは、その前に第8巻でVAに入ったときにも、公園に立ち寄っている。醤油工場の跡地から長嶋選手の野球ボールを救出したケンヂ達は、夕方の公園でいったん解散、その夜、首吊り坂に肝試しに行くべく再結集したのも、この公園だった。
この第8巻170ページ目の公園と、第7巻73ページ目の公園は、どう見ても同じもので、それに、同じアングルから描かれている。ケンヂもオッチョもコイズミも、どことなく元気がない。どちらも1970年の夏の夕暮れ時。現実の世界では、ついに出会うことのなかったケンヂとコイズミが、同じブランコに座っている。
公園論のついでに、階段論もやる。第16巻の冒頭で少年たちが虹を見ようと駆け上がった階段と、上巻でケンヂが映画にユキジを誘うべく待っている階段は、周囲の景色も含めてよく似ているので同じものだろう。後者においてユキジは「何、用って?」と言っているから、ケンヂは虹の階段に彼女を呼び出したのだ。
階段論のついでに、神社論もやる。VAに入った大人のケンヂが最初に訪れて、子供のケンヂと会ったのは神社だった。鳥居の次に描かれている石の壁は、同巻の150ページで二人のナショナル・キッドがすれ違う気味の悪い場面、下巻でケンヂが「現実のようで現実じゃねえ」と途方にくれている場面にも出てくる。
そして、もう一か所、第16巻の37ページにも登場する。ナショナルキッドのお面をつけて漫画を買いに出かけたフクベエは、サダキヨに間違えられて暴行を受けてしまう。神社の前でカツアゲするとは良い度胸だ。
(この稿おわり)
「水でも飲んどけ」(2011年7月4日撮影)