おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

ウッドストック 【後半】   (20世紀少年 第313回)

 
 ショーグンの記憶によれば、中村の兄ちゃんはCSN&Yを聴いていると「祭りのあとみたいなせつない気持ち」になると語っていたが、その話をオッチョから聞いたときのケンヂは万博に行けなくなった直後だったから、まさに祭りのあとの切なさをかみしめていただろう。

 一方で、映画「ウッドストック」は、愛と平和の祭典が始まる「前」の光景から始まるのだが、流れている曲はそのクロスビー・スティルス&ナッシュの歌である。彼らはステージにも立った。一緒にいたはずのニール・ヤングがフィルムに写っていないが、その理由はここでは省く。


 「20世紀少年」の第9巻44ページ目の下段に、ウッドストックの絵が描かれている。ケンヂの「しょせん世の中、金だ。金がなけりゃ、あんなすごいメンツ、そろえられるわけがない」というセリフの背景にある「すごいメンツ」とは、まず左上がジミ・ヘンドリクス。ちゃんと左利きに描かれている。

 その右はザ・フーのギタリスト、ピート・タウンゼント。ギターを壊すのが趣味の人で、ケンヂが嫌った産業ロックについて、「今のロックは豚だ」という名言を残している。彼の右手は、生まれ立てのお釈迦様のことく天を指さしているのではなく、この人は右腕を振り回しながらギターを演奏する癖があるのだ。映画でも観ることができる。


 中段中央に描かれた長い髪の女の人は、たぶんジェファーソン・エアプレインのグレース・スリックだろう。綺麗な人だった。その右側のメガネの男は知らない。その下は、「With a Little Help from My Friends」を熱唱中のジョー・コッカー。彼が着ていた、あの華やかな絞りのTシャツ、いいな、欲しいな。そしてもう一人、左下に大きなメガネのスライ。

 どの作品だったか忘れたが、村上春樹がスライ・アンド・ザ・ファミリー・ストーンに触れていたのを覚えている。「羊をめぐる冒険」だったかな。渋谷陽一が「ジャスはロック・ファンにとって退屈である」と書いているが、けだし至言であろう。逆もまた真なりや。

 村上さんのジャズ好きは周知のことだが、ノーベル賞候補にこう言っては何だけれども、彼がロックやフォークについて書いた部分に、ろくなものがない。無理して話題にしている感じがする。念のため、私は「風の歌を聴け」以来の村上ファンである。あの映画も好きだった。


 しかし、その渋谷さんにしろ、私の世代のロック・ファンにしろ、明らかに白人ロック偏愛であった。ウッドストックで歌ったスライも、モンタレーで歌ったオーティス・レディングも、もっともっと評価され愛されてもよいと思う。あの躍動感や迫力は、そうそうお目にかかれるものではない。

 サンタナが映画に登場するのが嬉しい。一体どういうふうにギターを弾くと、ああいう音が出るのだろうと思うギタリストの一人が、カルロス・サンタナである。サンタナの演奏では、パーカッションも名高い。他の出演者とは、はっきりと曲調が異なる。あなたの好きなサンタナの唄に合わせ、観客が踊る。ウッドストックの出演者で、私が実際にライブで観たのはサンタナだけだ。


 ザ・フーは2年前のモンタレーで、ある程度うさばらしができたのか、ウッドストックでは比較的、穏やかに演奏している。この20年後に彼らは、私の住むロサンゼルスで公演した。チケットは一番安いもので、1000米ドル。さすがに手が出なかったね。すでに、ドラムスのキース・ムーンが鬼籍に入っていた。ジョン・エントウィッスルも死んでしまったな。

 ジャニス・ジョプリンは、夜中のステージに裸足で立った。「みんな元気? 薬、やってる? 飲み水は大丈夫? 寝る所はあるの?」といった調子で、いかにも彼女らしく親しみをこめて客席にあいさつをしている。彼女はお客さんが大好きだったのだ。この宝石が、翌年この世を去ろうとは、観客の誰一人として想像だにしなかったであろう。


 最終日、最後にステージに立ったジミ・ヘンドリクスのことは、先日すにで話題にしました。ケンヂの成分表示になった「パープル・ヘイズ」の演奏中、キャメラは容赦なくガラガラの観客席で始まったゴミ拾いの風景を映し出す。それでも、最後まで残った客は、舞台にかぶりつきでジミの演奏を聴いている。ウッドストックジミ・ヘンドリクスを観た。このことは彼らの生涯にわたる誇りとなったに違いない。
 
 今も実家にあるロック・スターたちのインタビュー集の中で、ジミは「私はあまり歌がうまくありません」と謙虚に語っている。しかし、充分に聴かせるボーカルであり、あくまでギターと比べれば、ということだろう。この日の彼は白の上着、ブルージーン、茶色の靴、漆黒の髪に真っ赤なバンダナと褐色の肌という装いであった。16曲も演奏し最後は静かに「Thank you」と言い残して彼がステージを降り、ウッドストックは終わった。



(この稿おわり)





花曇り。もうすぐメジロが来ます。(2012年3月30日撮影)
 


 


桜と我が家(本日撮影)















































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