おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

小指   (20世紀少年 第296回)

 第10巻の第3話「1970年の嘘」の冒頭数ページは、万丈目と高須という不愉快極まりない人物が登場してきて、しかも陰湿な会話を交わすので読み飛ばしたい箇所なのだが、後へと続く話題が多いので、そうも簡単に無視できないのだ。舞台は永田町にある衆議院第一議員会館である。

 ここに呼びつけられたことがある。むかし所属していた会社が公金がらみのスキャンダルに巻き込まれ、担当の中間管理職として野党の代議士から事情聴取を受けた。議員本人は穏やかな対応だったが、その秘書がまさに虎の威を借る狐、体型だけタヌキという男で、この政党には生涯、投票するもんかと思った。その議員は現在その政党の党首をしている。


 さて、二人の政治家が陳情にあがっている相手は万丈目で、どうやら法案に関する内諾を取り付けたらしく「これで何とか衆議院は通過だ」と一安心している。すなわち、どうやら両名は与党第一党の政調会長とか国会対策委員長とかの幹部らであり、友民党は相変わらず連立相手として、キャスティング・ボートを握っているらしい。

 その二人が廊下で出くわして、年配のほうが慌てて恐悦至極の態度を示した相手は高須である。先輩政治家の若手に対する説明によると、高須の下の名は意外と可愛くて光代、職責はドリームナビゲーターの主任であるらしい。そして、党首万丈目の「これ」であるそうだ。小指は「妻、妾、情婦などを表す隠語」であり、すでに江戸時代の文献に出てくると広辞苑にある。通常、小指だけ伸ばして言葉に添える。かつてはひっくり返して「レコ」とも呼んだ。


 また、万丈目には第何夫人までいる大奥のようなものまであるらしい。ともあれ、高須が万丈目の小指であることは、すぐ後で万丈目が高須に対して、ワイフ気取りの小言かなどと揶揄しているし、ずっと先にガウン姿同士で会話している場面も出て来た覚えがあるので、間違いないだろう。あまり女の趣味が良くない。高須の場合は、趣味で男を選んだのではなかろう。

 喫煙に絡めて、「ルールは私がつくる」と万丈目は言っている。”ともだち”の立場はどうなるのだろう。友民党についてはという意味か。ともあれ、この日の高須の用件は重要なもので、「許可を出してほしい」というものであった。後の会話からして、許可とは、サダキヨの絶交および彼の持つモンちゃんメモの抹殺に対するものだろう。


 高須には、その権限がないのだ。では、万丈目にはあるかというと、現場に向かった高須に許可が下りたとの連絡が入るまでに相応の時間がかかっているので、自然に考えれば、万丈目は”ともだち”に許可を得る手続きを取ったのだろう。まがりなりにもサダキヨは、”ともだち”とは長い付き合いの男であり、この直前まで博物館長だったのだから。

 逆にいえば、フクベエはサダキヨをとうとう見捨てたことになる。博物館を燃やされたら、それは腹も立つだろうが、”絶交”するほどのことなのだろうか。それとも、万丈目によればサダキヨは、これまで何回も暴走しては、薬で鎮静させられていたようだからいい加減、愛想が尽きたか。

 少年時代から支配欲の権化のようなフクベエであったが、それなりに立身出世したので、サダキヨなどどうでも良くなったか。やっぱりコイズミの言うとおり、”ともだち”は友達ではなかったのだ。コイズミは、そのとばっちりを受けようとしている。そして、この時点では”ともだち”も、万丈目も高須も、カンナが合流しようと近づいていることを知らない。


 サダキヨの暴走と、カンナの覚醒については、どうやら高須と校長のラインとは異なる情報収集手段を持っているようで、すでに万丈目も知るところであり、カンナの覚醒については、本当にうれしそうに「さっそく、”ともだち”に知らせねばな」と目出度がっている。これからも、追々いろいろ出てくるが、万丈目は本当にフクベエが好きらしい。

 危機感は高須のほうが強かった。彼女の問題意識には次回、詳しく触れるとして、その前に今回は一つ、疑問に思うことがあるので、備忘録的に書き残しておく。そのうち答えが分かるかもしれないので。高須は、モンちゃんが遺したメモをサダキヨが後生大事に持っていることを知っている。なぜ知っているのか? なぜ、メモが問題だと考えているのか。


 これについては、”ともだち”一派というのは、監視・盗聴という陰険な手段で情報を集めるのが得意な集団なので、暴走族のサダキヨが常時、観察下に置かれていても不思議ではない。モンちゃんと会ったことも、居酒屋で長いことしゃべっていたことも知られていてもおかしくない。しゃべった内容も盗聴されていれば、放置できないことだと知れるだろう。
 
 ここからが私の疑問だが、ではなぜ、この日に至るまで12年間も、危険物のモンちゃんメモを看過していたのか。恐ろしく頼りない人物であるサダキヨに任せきりにしたのか。これに対して私の乏しい想像力は、最近になるまで、高須はモンちゃんメモの存在を知るほとの高い地位になく、それを知っていた万丈目は楽観的だったので放置し、ようやく二人が機密事項を情報交換するほどの小指的関係になったため、こういう展開になったという予想を立てるのが精いっぱい。


 もっとも単純に考えれば、モンちゃんメモの中身は、サダキヨが話して聞かせたことなので、サダキヨが生きている限り、彼がまた秘密を漏らすのと、モンちゃんメモが独り歩きするのと大差はないようにも思える。ただし、サダキヨのいうことを皆が信じるかどうか。実際、カンナも後に屋上で彼に対して不信感を露わにしている。

 しかし、モンちゃんメモが仲間に渡った場合はどうか。その経緯をサダキヨが話したらどうなるか。昔は血書、血判という決死の意を表す作法があったが、モンちゃんはこれがために本当に死んだ。1997年、ケンヂが決起したきっかけはドンキーの無念の死であった。サダキヨが話してきかせるだけとは説得力が違うだろう。かくして、サダキヨとメモはセットで抹消すべしというのが高須の結論になったのだと思います。


(この稿おわり)



ちょっと不謹慎かもしれないけれど、指先の芸術といえば「これ」。
本物を一度だけ至近距離で見たことがあるが、言葉にできない何かを感じた。


谷中霊園にて(2012年3月11日撮影)