おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

きゅうせいしゅ   (20世紀少年 第269回)

 かつてモンちゃんが、その一部のコピーを入手した「しんよげんの書」は、鼻ホクロ巡査も「きゅうせいしゅ」の件を知っているところをみると決して機密文書ではなく、「よげんの書」と同様、”ともだち”の予言書として、仲間内では広く知られているらしい。13番もサダキヨも知っている。

 ところで、鼻ホクロ巡査に、カンナの「絶交」を命じたのは誰だったのだろうか。あるいは、彼の単独犯行か? ちょっと後者は考えづらい。カンナが”ともだち”の娘であることは、1997年の「ともだちコンサート」や、ケンヂのコンビニ店襲撃の場面でも明らかであるように、”ともだち”関係者にとっては周知のことである。


 その娘を無断で殺せるはずがなかろう。では、命令したのは”ともだち”か? あるいは別人か。これまでの登場人物で、”ともだち”以外に人殺しを命令しているのは、バンコクでの万丈目と、蝶野刑事の「絶交」を命じたヤマさんだけで、間もなく出てくるがこのころ高須主任はその権限がないらしく、万丈目に許可を求めている。

 しかし権限移譲を受けた幹部にしても、”ともだち”の実の娘を、無断で殺害できないであろうことは同様である。それでは、教会における鼻ホクロ巡査の凶行をどう説明したらよいだろうか。


 彼の言動からして、彼はカンナが「きゅうせいしゅ」であり、自分がその暗殺者であると考えて、ここまでやってきたことは明らかである。ところが、撃たれたのちに虫の息で、「俺が救世主だったんだ」、「ともだちばんさい、ともだちばんざい」と、つぶやいて死んだ。

 「しんよげんの書」は予言である限り、実現されなければならない。1997年と2000年に、「よげんの書」の内容が次々と実現されていくのに驚いたのはケンヂだったが、2014年にはフクベエが、本当に新宿の教会で悪夢のような集会が開かれることになり、さぞかし驚いたに違いない。しかも主催者は実の娘だもんな。


 この悪夢の集会を粉砕すべく”ともだち”に選ばれた「きゅうせいしゅ」が、鼻ホクロ巡査であったろう。ただし、本当にカンナを殺されてはまずい。そこで、本来は法王狙撃のため傭上された13番に、急遽、「きゅうせいしゅ」の絶交命令が出されたのだろう。こう考えれば、一応つじつまは合うように思う。

 狙撃犯を追いかけたオッチョは、近くのビルの屋上で、ヘリを使って脱出を図らんとしている13番に、角田氏を人質に捕らえらるという事態に陥った。オッチョも初耳の「しんよげんの書」を13番が読み上げる(ちょっと見た感じでは、コピーではなくてオリジナルのようだが...)。13番にとって「きゅうせいしゅ」の一件は、これで落着したらしい。


 続いて13番が朗読した一節は、モンちゃんのコピーにはなかった。「せいぼがこうりんするとき、てんごくかじごくのどちらかをたずさえてくるだろう」。読んだ途端に13番は解答を得たと快哉を叫ぶ。「聖母の降臨」とは、カンナの母親の出現であると。

 これを聞いたオッチョの驚きも並大抵のものではない。彼はケンヂが、「カンナは、姉貴と”ともだち”の間に生まれてきた子かもしれないんだ」と話していたことを思い出している。ついでに、小学生時代に遠藤酒店でキリコに会ったことも思い出した。子供のころ、友達の姉さんというのは眩しいもので、オッチョ少年も少し頬を赤らめている。

 13番は犯行現場からヘリで逃亡した。キリコは現れるのか。携えてくるのは天国か地獄か。まだまだ先は長い。これで第9巻は終わり、第10巻に進みます。


(この稿おわり)



浅草花やしきは江戸時代開園の遊園地。
ともだちランドなんて、頭が高いのだ。
(2011年1月22日撮影)