第9巻の16ページ、目が覚めても、まだバーチャル・アトラクション(VA)に滞在中のコイズミであった。ちなみに、小泉響子の名は、やはりキョンキョンこと小泉今日子からとったものだと思う。彼女は、私や浦沢直樹さんや皇太子殿下が、大学生だったころにデビューしている。
あれでも最初のうちは、青年向けの雑誌などで水着姿などを披露していたのだ。しかし、例によって売れ始めると厚着になってしまった。ともあれ当時、私の周囲にも若き日の彼女のファンは多かった。「あの性格の悪そうなところが、たまらん」というコメントもあった。
さて、VAのコイズミは腹が減ってはいるが、こうなったら徹底的に”ともだち”の正体を「洗ってやる」と決意を新たにしたところ、目の前をトコトコとヨシツネが走っていく。飛んで火に入る夏の虫、オッチョに夏休みの宿題を教わりに行くと抵抗しているのだが、てんで迫力負け。
なんせコイズミは神様とヨシツネ隊長から、”ともだち”とケンヂ一派の真相を詳しく聴いているのだ。「そのうち、この世界は”ともだち”におかしくされちゃうの。あんたが、ちゃんとすれば、それをふせげるの」と必死の説得にあたる。ヨシツネ少年は「オバちゃんの言ってること、全然わかんない」と言い返して、コイズミの怒りを買っている。
さすがに高校生がオバちゃん呼ばわりされたら怒るだろうな。私が初めて「おじさん」と呼ばれたのは、21歳の大学3回生のとき。バイト先に早く着いて、午後の公園で時間をつぶしていたら、3人の少年が近づいてきて、「おじさん、今、何時?」と訊いてきた。自分が未熟な成人であることを自覚していただけに、むしろ、ちょっと嬉しかったのを覚えている。
コイズミは、ほんの少し前までは、ヨシツネ隊長の言っていることが全然わかんない状態だったのだが、わずかの間に攻守交代したことになる。さて、二人の間では、昨晩テルテル坊主の陰にいた二人のうち、一人が上履きをはいていたことについて「推理」が交わされる。
ここでヨシツネが不用意に、「僕、わかってんだ。あいつ一学期に転校してきたやつだよ」と口を滑らせ、上履きの色が違うという説得力のある根拠まで示したものだからコイズミにそいつの居場所を追及され、挙句に学校の屋上まで同行することになってしまった。宿題はどうするのだ。
屋上ではヨシツネが言ったとおり、一人の少年が「交信」中であった。ヨシツネによれば、名前は「サダキヨ」。現実の少年時代と同じく、サダキヨは学校の屋上で宇宙人との交信を試みている。もっとも、VAのナショナルキッドのお面の少年は、言動こそ確かにサダキヨ的だが、お面の下の顔は分からない。ほかの誰かでもあり得る。
その「サダキヨ」は、「あいつに家からシーツを持って来いって言われただけさ」と首吊り坂に居たことを認め、その「あいつ」が「ともだち」であり、「うしろにいるよ」と教えている。コイズミとヨシツネ少年が振り向くと、そこには、忍者ハットリくんのお面をつけた少年が、例の効果音と共に立っていた。
この少年の姿は服装からしても、かつて触れたとおり、1997年の同級会の夜、フクベエからサダキヨの名を聞いたときに思い出した姿である。後に「21世紀少年」において、「パンチアウト」したときにも思い出している。ケンヂの回想にしかいないはずの少年がここにいる理由を私は知らない。
サダキヨの名前は、その同窓会の場面に加えてもう一回、2000年の血の大みそかの夜、デパートの屋上でフクベエがケンヂの前で、忍者ハットリくんのお面をかぶった男に対し、「おまえ、サダキヨだろ...」と呼びかけて以来の登場である。こうしてみるとフクベエはケンヂに対して、「忍者ハットリくんのお面 + サダキヨ = ”ともだち”」という構図に誘導しようとしていたのだろう。
そして、この屋上においても、相手がケンヂからコイズミに替わっても、サダキヨの顔こそ技術的な理由で恐ろしいものになっていたが、「忍者ハットリ君のお面 + サダキヨ = ”ともだち”」という演出は変わっていないということになる。
ヨシツネ隊長の「見たら殺される」という懸念は、結果的に、とり越し苦労だったということなのか? だとしたら強制終了によって死ぬことになる残りの研修生二人は、あまりに気の毒であった。ヨシツネを責めるわけにもいかないが...。気の毒だが、トップ3に入ったのが、そもそも間違いのもとだったのだ。
(この稿おわり)
夕方の上野公園にて。カモメ二羽。並んだ水兵さん。
(2012年1月15日撮影)