ケンヂ一派のメンバー紹介に続いて、コイズミたちはディズニーランド風の機械座席に座らされ、「”2000年血の大みそか”の世界にひとっとび」することになる。多分それからバーチャル・リアリティー用のアイマスクを付け、コイズミは地下の下水道に迷いこんだのだ。
ここでケンヂに襲われた彼女は、「恥ずかしくて言えない」ことをされたらしく、ひどく意気消沈しているのだが、同行の3人の娘たちは意気軒昂。「ケンヂ最低」というのはまだしも、マルオの評価がひどい。「マルオだってデブのくせに」、「マルオ史上最低のデブ」。ひどすぎる。史上最低となると、ヤン坊マー坊以下か?
この研修会の参加者は、この場面でもそうだし、後に出てくる”ともだち”の紹介シーンでも同様だが、積極的に”ともだち”について知りたがり、ケンヂたちを憎んでいる若者たちである。研修会の主たる目的は、後にヨシツネが語るところの表現を借りれば、その中でも特に熱心で優秀なものを「”ともだち”に、とりこむ」ためのものだ。
ところが、中にはコイズミのように、成績が振るわず、”ともだち”に好意を持たない者も混じっている。そういう参加者は「ともだちワールド」に送られるらしいのだが、そこがどういうところで、何をされるのかは描かれていない。洗脳というよりは、懲罰に近いことがなされるのではないか。生きて、あるいは、正気で還れるのだろうか。
4人の少女たちの前に、ドリームナビゲーターの高須さんが初登場する。高須は、これからどんどん人相が悪くなっていくのだが、このころはまだしも商売柄、笑顔を浮かべている。「一週間もすれば、あんなアトラクション、かるくクリアーできるようになりますよー」と言っている。胸につけてるマークは「DN」と、"ともだち”印。
この研修会、一週間も続くのか...。ともあれ後日、コイズミはクリアできた。ただし、独力でではなかったし、「かるく」でもなかったが。連れにもらったティッシュで鼻をかんだコイズミはゴミ箱を探すが、高須に「その辺に捨てていただいて結構です」と敬語で言われて捨てた。
ディズニーランドには、園内のゴミを一日中、拾ったり掃いたりする係の人がいると聞いたことがあるが、ともだちランドにも、「ドリームクリーナー」がいて、コイズミのゴミもあっという間に回収された。最初の読書では、うかつにも私は、これが誰だなのか気に留めもせず読み飛ばしている。
”ともだち”の紹介場面では、司会の男が参加者に、目をつぶって思い浮かべろと言っている。すると、多くの研修者のまぶたの裏に”ともだち”が現れたらしい。集団催眠であろうか。コイズミは催眠にかかりにくい体質なのか、想像力が鈍いのか、良く言えば「ともだちコンサート」でのケンヂと同様、周囲よりはるかに健全だったようで、ひっかからない。
宿泊施設に戻っても、浴場で湯につかりながら、「ばっかばかしい。そんなもん、見えてたまりますかっての」と鬱屈を貯め込んでいる。「そんなもん」は見えなかったが、その替り、彼女が見たのは浴場の窓ガラスに、ヤモリのように貼り付いている眼鏡とヒゲの目立つ男の姿だった。次から次へと、ろくなことがない。だがまだ序の口。
(この稿おわり)
根岸幼稚園前の風景(2012年1月2日撮影)