おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

理科室への怪談 (20世紀少年 第345回)

 第12巻の第6話でユキジとヨシツネとコイズミは、首吊り坂の屋敷と、理科室の夜を話題にしている。いずれも”ともだち”がらみの大事件なのだが、この両者には共通点があって、ともに幽霊が登場する怪談なのだ。首吊り坂には神田ハルの幽霊が、理科室にはカツマタ君の幽霊が出てくる。

 首吊り坂が再度、話の中に出て来たのは、コイズミがヴァーチャル・アトラクション(VA)で見た子供たちと、卒業写真の子供たちの年齢が違うのではないかと問題提起したのが発端となっている。ヨシツネは、首吊り坂の事件が小学校5年生のときだと断言し、ユキジもそれで幼く見えたのかと納得している。


 ヨシツネには悪いが、この後の展開の大切さを考えると、首吊り坂の事件は本当に5年生のときなのか確認を要する。第8巻第10話の「首吊り坂」はVA内の首吊り坂、第16巻第4話の「本当の首吊り坂」は実際の事件か誰かの回想か、いずれにしても、「本当」と書いてあるのだから本当の首吊り坂なのだ。そのどちらにも、小学校5年生の1学期だけヨシツネ達と同級生だったサダキヨが登場する。

 第16巻では、小学校5年生のフクベエが大阪万博をテーマにした偽日記を書いているときに、ケンヂが首吊り坂へのお誘いに来ているから、やはり5年生であるのは間違いがない。ヨシツネが自信満々で言い切っているのは、サダキヨの上履きの色が違っていたことを、コイズミから聞いたか、自分で思い出したのかもしれない。


 ところが、ヨシツネの記憶とコイズミの記憶とでは西暦が違った。ヨシツネとユキジが5年生だった夏は1970年である。コイズミがVAのジジババの店で、新聞の日付を確認したことは第8巻に出て来ており、1971年だったという彼女の記憶は間違っていない。ユキジは謎を解こうとする。”ともだち”の記憶違いなのか、それとも、”ともだち”の嘘なのか?

 読者は、第10巻で高須が「1970年の嘘」について、万丈目と相談していたのを知っている。そのとき二人は、嘘があることを自分たちが知っているのを”ともだち”に露見するのを懸念していたのだが、誰のどんな嘘なのかは示されていなかった。ここにきて、”ともだち”の嘘ではないかという疑惑が生じた。嘘とは、理由はまだ分からないが1970年の出来事を、VAでは1971年のこととしているらしいと察しが付く。そして、間もなく本当に彼が嘘つきであることが次々と明らかにされる。

 
 ユキジとヨシツネは連想ゲームのように情報交換し合いながら、それぞれの記憶を辿り始めた。1971年、6年生のときは、何があったのだろうか。ユキジが最初に思い出したのは、山根のクマノミ事件ですでに想起したフナの解剖。理科の大好きなカツマタ君が幽霊となって理科室に現れると男子が騒いでいた思い出。

 ヨシツネが釣られて思い出したのは、1997年のドンキーのお通夜の夜に、モンちゃんが話していた理科室の夜の出来事だった。ドンキーは理科室で何かを見たとヨシツネは語る。コイズミは怪談が苦手なようで、顔に怖いと書いてある。次のコマは、やはり見るからに怪談が苦手そうな角田氏が、同じ話をショーグンに聞かされて怯えている。


 角田氏はこれから、その理科室に行かなければならないのだから、コイズミよりも深刻な立場なのだ。理科室への階段には、赤外線センサーが設置されているが、ショーグンは「この通知で今夜、集まる人間は、ガラスを破って侵入するような姑息なマネはしない」と何故か自信満々で敵を評価している(自分はガラスを破ったよね)。

 「もし赤外線センサーに反応せずに侵入できるとすれば、そいつらは幽霊だ」とショーグンは言った。オッチョは首吊り坂以来、幽霊の存在を信じている様子なので説得力がある。それだけでも恐ろしい角田氏なのに、次の瞬間、長い髪をなびかせて威風堂々、ショーグンがセンサーを突っ切るのを見た。幸い、防犯装置は切られていた。姑息どころか、ろくな秘密集会ではあるまい。


 かくして、理科室にいるのは生身の人間だとショーグンは結論を出した。幽霊ではなくて一安心だ。その理科室のドアが開いている。ここでオッチョは「ドンキー、あのときお前は何を見たんだ」と、先ほどのモンちゃんに続いて、ドンキーの少年時代も回想している。オッチョも大勢の親しい者の死に接してきた男であった。

 暗い理科室を覗きこみながら、「誰かいる」とショーグンは言った。間もなく彼はこれから、あのときドンキーが見た人物三名のうち二人と会うことになる。そして、ドンキーに負けず劣らず驚かされることになる。ちなみに、本日のタイトルは、階段と怪談、ゼップの「天国への階段」を掛けようとしたのだが、上手くいかなかった...。


(この稿おわり)




ドンキーは恐るべき何かを見た。
(2012年5月1日撮影)




モクレンには白と紫の二種がある。
私は紫が好きです。
(2012年4月21日撮影)