おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

フクベエの落ち方     (20世紀少年 第172回)

 第5巻の170ページ目。珍しくフクベエが泣いている絵が出てくる。「俺の女房をさらい、ケンヂの姉をそそのかし、ドンキーを殺し、細菌をばらまいて大勢の人を殺した」相手に対して、「やめてくれ。もうやめろ」と叫びながら涙を流している。相手は無反応。

 そこでフクベエはケンヂが制止するのも聞かず、鉄柵を乗り越えて、ハットリくんのお面の男に立ち向かう。乗り越えながらケンヂに話しかけているのは、秘密基地にサダキヨを引き入れたのは自分の責任であるということだった。その件は同級会のときも、第17巻にも描かれている。


 もっとも、そのあとで、「秘密基地の創設メンバーには加われなかったけれど、解散式には参加できた」と語っているのは初耳である。解散式の様子は、すでに第1巻で出てきました。190ページと191ページ目に、それぞれ11人の少年が描かれている。

 ただし、全員の顔が描かれてはいないので、仮に、そのうちの9名が、ケンヂとマルオとヨシツネ、ユキジとオッチョとモンちゃん、コンチとケロヨンとドンキーとしても、あとの2人はついに分からないままである。フクベエがこの中に居たのかどうか。見た感じでは、ヤン坊マー坊の巨体は加わっていない。


 鉄冊の上で彼は、「ドンキーが旗を作って、みんなで缶の中に思い出の品を詰めた」ことや、ケンヂの演説を覚えているのだと言う。演説下手なケンヂではあるが、このときは抜群に冴えていた。第1巻にも第7巻にも、その雄姿が登場する。

 演説内容は、もう何回か引用したので全ては書かないが、「俺たちが敵から地球の平和を守る時だ」という趣旨であった。それをフクベエが暗唱している。本当にその場所にいたのなら、よくまあ、覚えていたものだ。しかし、この缶を掘り起こした夜、フクベエはまたしても呼んでもらえなかった。知っていたなら、恨んでいたに違いない。


 ところで、その1997年の夜に、モンちゃんとマルオが掘り出した缶の中から出てきたものの中で、持ち主が分かっていないのもがあり、185ページ目の中段でモンちゃんが手にしているナショナル・キッドの丸いメンコがその一つである。

 フクベエは、ケンヂに自分が何を缶に入れたか覚えていないと語っているが、本当に彼が解散式に参加したならば、このメンコは彼の品物である可能性がある。第11巻の129ページ目、ともだち博物館長のサダキヨが包囲網を突破しようとして手にしているのは、鉄人28号と風のフジ丸の丸いメンコである。”ともだち”はメンコが好きだったのだ。


 フクベエはハットリくんからリモコンらしき箱を取り上げようとし、さらにお面を剥ごうをして掴みあいになるが、何とハットリくんが、死なばもろとも作戦に出たため、二人してビルの下に落ちてしまう。落ちる瞬間にフクベエはお面を外すことに成功するが、「サダキヨ...じゃない。」という言葉を残して落下する。

 13階から落ちたら、普通は死ぬだろう。しかし怪我もなく生き残ったのだから、何らかの救命方法を準備していたのだな。下に緩衝材を置くとか、実はパラシュートのようなものを持っていたとか、バンジージャンプで逃げたとか、いろいろ想像したものの、下に誰が居るか分かったものではないし、ケンヂに覗かれたら台無しになる。


 やはり、お得意の天井からピアノ線か何かでぶら下がる方式を用い、「宙に浮いた」感じで着陸したに相違ない。その命綱は、落下までのフクベエの行動からして、彼の身体につながっていたとは考え辛く、おそらくハットリくんが用意していたのだと思う。それならば、フクベエだけでなく彼も一緒に助かったはずだ。映画ではそうなっていなかったようだが。

 ところで、フクベエの「最後」の言葉、「サダキヨじゃない」が気になる。このブログの前回、前々回は、このハットリくんのお面の男はサダキヨに違いないという想定で書いているので、最後にこんなことを言わると迷惑である。ハットリくんは、ここで舞台から姿を消すので誰でも構わないといえば構わないのだが。


 それより、作者の意図がつまびらかでない。このメッセージを伝える相手は、ケンヂと読者しかいない。万一、ケンヂたちが生き残ると、ともだち探しをするだろうから、その調査を妨害するためか? 実際、その目的でサダキヨに接触したモンちゃんは、罠にはまって殺された。

 読者にとってみれば、第1巻でフクベエとケンヂに容疑者にされたサダキヨは、実は中学生のとき死んでいたとされ、ここでまた生きているとされ、でもハットリくんはサダキヨではないとフクベエに報告され、本人はちっとも登場せず、混乱の極みである。このミステリは第12巻まで続く。


(この稿おわり)



13階よりエンパイヤ・ステートビルのようなものを望む。フクベエは鉄柵を乗り越えているのだが、実際は写真の左側にあるように、その上に鉄条網がびっしり巻かれているので容易に越えることはできません。
(2011年11月16日撮影)