おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

ジャニス    (20世紀少年 第120回)

 オッチョとケンヂの会話については次回にまわして、今しばらく中村の兄ちゃんの部屋に滞在しよう。なんせ「20世紀少年」のバック・グラウンド・ミュージックはロックなのだ。見過ごすわけにはいかないものが兄ちゃんの部屋にはある。

 第4巻70ページ、壁の大きなポスターは、ジミ・ヘンドリクスボブ・ディランである。ボブ・ディランについては、いつか機会を改めて語ります。そして、部屋には不釣り合いなほど立派なステレオもある。LPを載せて回すターン・テーブルも見える。

 
 窓際の壁に立て掛けてあるアルバムの一番手前はクリームのものだ。ジャック・ブルースエリック・クラプトンジンジャー・ベイカー。私も持っているが2枚組の大作であり、C面(これも死語か)にロバート・ジョンソンの「クロス・ロード」(十字路)が入っている。ジョンソンは、後ほどこの漫画に2回ほど出て来るのでお楽しみ。十字路の悪魔だ。

 クリームのこのアルバムの原題は「Wheels of Fire」という。しかし直訳すると「火の車」であり、やや語感が良くないせいか、当時は「クリームの素晴らしき世界」というNHKの番組みたいに無難なタイトルがつけられていた。


 床に拡げてある4枚のジャケットのうち、一番上は知らない。2番目はジェフ・べック在籍時代のヤードバーズ。ニワトリの絵が可愛いやつ。3枚目はバーズだな。4枚目にツェッペリン型飛行船をあしらった、ゼップのデビュー・アルバムが見える。1曲目は「グッド・タイムズ・バッド・タイムズ」、ジミー・ページの間奏のソロの凄さよ。


 少し飛んで75ページ目に、「チープ・スリル」のジャケットが描かれている。リード・ボーカルはジャニス・ジョプリン。このアルバムに入っている彼女の代表作の一つ、「ボール・アンド・チェイン」は、モントレーでも歌われた曲だ。ライブ・フィルムでは唄い終わった彼女が、小走りで舞台の袖に駆けこんでいく後ろ姿が映っている。

 ジャスの古典、「サマー・タイム」も収録されています。これを唄うジャニスを、アメリカのケーブル・テレビで見たことがある。鳥肌が立つとは、ああいう感覚を指すのであろう。それなのに、中村の兄ちゃんは「ジャニ・ジョプの声って、藤圭子みたいに悲しいよなあ」と見当外れのことを言っている。

 ジミ・ヘンドリクスがジミ・ヘンなら、ジャニス・ジョプリンはジャニ・ジョプらしい。これを受けてオッチョは、エリック・クラプトンがエリ・クラで、落合長治はオッチョだと言っている。お後がよろしい。ともあれ、中村の兄ちゃんはオッチョを経由して、ケンヂをロック・ファンにしたのだから、人類の恩人の一人であろう。


 ジャニスの最後の作品「パール」は、彼女の急死のあとになって発表された。シングル・カットされた「ミー・アンド・マイ・ボビー・マギー」は、私の一番好きな歌だが、ジョン・レノンの「スターティング・オーバー」や、オーティス・レディングの「ドック・オブ・ザ・ベイ」と同様、本人の死後にヒット・チャートのトップを飾っている。

 「ボビーに寄り添っていられるなら、過ぎ去ったあのときを一日でも取り返すことができるのなら、明日からの全ての日々と取り替えたって構わない」とジャニスは歌った。普段、泣き顔の彼女も笑うと、そのあだ名のパールのように、丸くて可愛い笑顔になる。私がロックを聴き始めたころ、彼女はすでに他界していた。オッチョが羨ましいな。


(この稿おわり)



近所の諏方神社の秋祭り。お神輿が出るのだぜ。 (2011年8月28日撮影)