このブログでキリコの話が長いのは、例えば神様は脇役だが、キリコはそうではないと私は思っているからだ。彼女はケンヂとカンナとフクベエの親族であり、ウィルスとワクチンの開発を手掛けている。重要な登場人物なのだ。
キリコと山根をいっしょくたにして、マッド・サイエンティストと片付けるのは乱暴ではなかろうか。ことが発覚してからの行動が異なる。それに、悪意はなかったのに結果的にともだちに悪用されたという意味においては、キリコの研究は、ケンヂたちの「よげんの書」と同様である。この姉弟は自ら播いた種とはいえ、その刈り取りに命を賭すことになった。
漫画「20世紀少年」において、キリコの登場場面は決して多くないが、重要なシーンばかりである。冒頭に出て来るし、終幕にも登場する。ただし、出番が断片的である上に、時系列になっていないので、彼女の人生がどんなだったのかを押さえていくのは結構、大変である。
しかし、この一連のブログは本格読書感想文であるがゆえに、重要人物をいい加減に扱って済ます訳にはいなかい。そこで、第2巻においてバイク事故で大怪我をしたケンヂを見舞っているキリコ、そのころ20歳前後に見える彼女の、その後の半生を追いかけようと思う。といっても情報量が少ないので、かなり推測が交じる。
彼女の履歴のうち、はっきりと年代が分かるものは、第11巻163ページでカンナが見つけた母キリコの医師の証明書である。カンナの台詞によれば、「ユニバーシティ・ガインデ・ホスピタル レジデント研修修了 メディカル・ドクター キリコ・エンドウ」。そして、「母さんはアフリカで医師の資格を・・・」ということらしい。
この証明書は、はっきりと描かれてはいないが、どうやらキリコがアフリカの病院でレジデント(昔は研修医といった)だったのは、1991年7月から1994年6月までの3年間だったようだ。となれば、その前に、アフリカかどこかで医科大学を卒業し、試験に合格して医師免許を取得しているはずである。
しかし、アフリカの医師免許では日本で医師と認められないのであれば、医師免許を取得したのは日本ではないだろうと思う。なぜなら、第19巻の152ページ目で、キリコと、彼女にプロポーズしている男性(諸星さん)との話の中で、医療の資格がないこと、国立の受検に失敗したこと、私学に行くお金が無いことが語られている。
この会話が何年のことか良く分からないのだが、その後の話の展開からして、このあと間もなく諸星さんは、ともだち関係者により1994年に殺害されている(第2巻第9話)ので、1994年の会話であろう。キリコは帰国後に日本で進学し、医師免許か何か医学関係の資格を取ろうとしていたのではないか。
この会話に、「父が死んで、母一人で、お店を放っておけない」という発言があるので、キリコの父の死はそう遠くない昔のことなのか? キリコはアフリカから戻り、一旦は母とともに酒屋の経営を始めたのだろう。ケンヂはまだバンド活動から戻ってきていないのだろうか。
キリコは二十代に何をしていたのか全く分からないが、三十代は以上のとおり。94年にアフリカでレジデント終了、94年までに父が死に、このため酒屋を継ぎ、プロポーズを断った諸星さんが死んだ。以下の話題の詳細は次回に譲るが、95年ごろ、キリコはともだち関係の病院に現れるので、同じくこのころ、ともだちに誘惑されたのだろう。
(この稿おわり)
つる草には夏がよく似合う。(2011年7月30日撮影)