おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

スプーン曲げ     (20世紀少年 第51回)

 スプーン曲げ男、ユリ・ゲラーについての大騒ぎは良く覚えている。私には、どうにもスプーン曲げがインチキとしか思えないのは、一つには、その後に話題になったスプーン曲げ少年たちが、インチキであったという報道が複数あったのと、今ひとつは、どうしてスプーンしか曲げられないのか納得のいく説明を聞いたことがないからです。

 もっとも、騒動があって後に雑誌か何かで、スプーンはインチキしなくても曲がるという記事を読んたのを覚えている。確か一つは、何回も指でこすると、熱で金属も曲がりやすくなるというもので、もう一つは、てこの原理を利用し、押すべきところを押せば、それほどの力をこめなくても曲がるというものであった。


 道具などの力を借りずして、スプーンを曲げることができる方法というのを、ここ一週間ほど考え抜いて、ようやく幾つか揃った。すなわち、(1)超能力、(2)上記のような物理法則に則った正攻法、(3)種も仕掛けもある手品、(4)こっそり腕力で曲げておくなどの、ただのインチキ。

 (3)の手品については、ネットで探してみると、さすがに種明かしそのものというのは出ていないが、(2)の物理法則を上手く利用したものとか、手品ではお馴染みの別の品とすり替える早業とか、曲がりやすいスプーンを用意しておくとか、とにかく、(4)のインチキと違うのは、超能力だと主張せずに客を楽しませるものである。


 この作品において、スプーン曲げのシーンは、ずいぶんたくさん出て来る。巻名やページ数は煩わしいので、ここでは省略するが、市原・新倉両弁護士と自分のスプーン計3本を曲げた、万丈目の仕業と思われるものから始まる。

 ケンヂからユリ・ゲラーの話を聞いた直後、幼女のカンナがこっそり曲げるシーン。ともだちランドに向かうバスの中で、コイズミほか研修生みんなが曲げてしまう場面。すり替わったらしい2人目の”ともだち2の目の前でカンナが曲げる場面。

 フクベエ少年が、万丈目と山根の前で曲げてみせるシーン。「21世紀少年」のヴァーチャル・アトラクションの中で、万丈目が曲げて自ら驚く場面。そして何より圧巻は、関口先生のクラスで給食用のスプーンがすべて曲げられた事件。


 結論からいうと、神様の予知夢やカンナの諸能力と同様、スプーン曲げも「あり」の世界の出来事として、このSF作品は描かれているとしか私には考えられない。給食事件などは、上記の(2)物理法則、(3)手品、(4)インチキでは、とても説明できないではないか。「20世紀少年」の世界では、スプーンは常識を超えた能力により曲がるのだ。


 ただし、すべてのケースが超能力によるものなのかどうかは分からないし、誰が曲げたのかも問題である。最初の喫茶店での出来事は瞬時に3本のスプーンが、グンニャリと曲げられており、絵を見る限り、万丈目の手品やインチキにも見えないので、これは特殊な能力によるものであろうか? 

 しかし、3人の当事者以外に、当事者やスプーンに着目している客などいないし、喫茶店の店員にもその種の気配はない。弁護士二人は本当に驚いている様子である。消去法でいけば万丈目しかいない。しかし彼は上記のとおり、「本人死去後のバーチャル・リアリティーの中」という不思議な設定とはいえ、自分でスプーンを曲げて驚いており、平仄が合わない。


 自ら手品や超能力を使いこなせるなら、万丈目はとっくにそれで自分の売り出しを図っていただろう。そう言う意味で、この人は極めて平凡で現実的な男であり、商品となる人間がいなければ、業界で暮らせない男なのだ。では、誰がこの3本のスプーンを曲げたのか? 今の私には分からない。将来の私にも分かりそうもない。

 この喫茶店でのスプーン曲げ事件は、本当か嘘かはともかくとして、”ともだち”が異常な能力の持ち主であることを、信者集めの方便(客寄せの売り物)にしていることの象徴的な表現だと片付けてもよい。

 問題は、関口先生のクラスで起きた給食事件と、フクベエがテレビから降ろされた事件の真相であろう。それはまだ先のことなので、今回はこれまで。


(この稿おわり)


久しぶりに挑戦したのだが、やっぱり曲がらないものは曲がらない。 

(2011年7月23日撮影)

















































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