おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

赤ん坊のカンナの表情     (20世紀少年 第15回)

 
 第1巻の始めの部分で、ケンヂがお母ちゃんやチョーさんやマルオと話をしているころのカンナは、どうやら首は座っているようだが離乳は終わっていないみたいだし、となると生後3か月から5か月くらいだろうか? ちなみに彼女の一番、年若い姿はこの場面でなくて、第8巻第5話「人類の勝負」に出て来る。

 この巻の82ページ目、母キリコに抱かれた新生児のカンナがすやすや寝ている。その絵柄や「たのもしいパパ」との会話の内容からして、これは出産直後の産院内の光景だろうか。次のページで、家政婦さんか誰かに抱かれているカンナは少し日が経っているようだ。この日、キリコはフクベエの下から逃げ出す訳だが、ここでの登場人物はみな長そで姿である。

 他方、第1巻でケンヂは「生まれたばっかりの赤ん坊を手放すなんて、どういう気持ちだったかよ」と語っている。つまりキリコがカンナを置いて出て行ったときは生まれたばかりだったが、その後、何か月か経ちカンナもそれだけ育って第1巻を迎えており、人々の服装も半そで姿に変っている。カンナの誕生日は知らないが、1996年から1997年にかけての冬か、97年の初春に生まれたのだと思う。


 さて、一般に0歳児は怒り方を知らない。正確には、大人にも分かるような怒りの表情を作らず(だから赤ん坊は可愛い)、その代わり泣く。実によく泣く。母親はその泣き声や顔つきなどから、眠いのか空腹なのか、おむつの具合が悪いのか暑いのか等々を見極める。ところが、カンナは一人前に怒る。さらに、彼女の表情の変化は、ケンヂおじちゃんの心境の変化を映しているのだ。

 まず、冒頭でケンヂとお母ちゃんが言い争いを始めたとき、カンナはケンヂの不機嫌を感じとって泣いている。直後にケンヂが正当な理由によって母親を糾弾し始めると、今度はカンナも一緒に怒っている。決め台詞は「だー!」です。このあとケンヂが刑事たちに事情聴取を受けている間はカンナも不安そうだし、マルオと他愛のないお喋りをしている間は、いかにも平和な、いかにもマルオ的な穏やかな顔で寝ている。


 そのあと敷島家や野球場で、ケンヂがともだちマークを見つける場面においては、カンナも至って機嫌が悪い。そしてとうとう彼女の感情が爆発するのは、第3巻の62ページ、ともだちコンサートでケンヂがともだちに翻弄される場面において、この0歳児は怒りのあまり立ち上がり、会場があるらしき方角に向かってブーイングを始める。

 このようにしてカンナとケンヂは離れ離れのときも、寄り添いあって生きていくのだ。もっとも、上記のともだちコンサートに対する怒りは、別の人すなわち”ともだち”の心を読んだのかもしれない。

 何巻目に出てきたか忘れたが、のちにカンナはこんなことを語っている。「ともだちの考えることは分かるけれど、ともだちのコピーの考えることは分からない」。どうやらカンナのこの手の特殊能力は、肉親に対してのみ発動するらしい。


(この稿おわり)