おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

トランプ並み  (第1236回)

 小さいころ家族や教師から、人のことを馬鹿と呼んではいけないと、何度も説教されたものだ。その割に、両親など平気で人を馬鹿呼ばわりしていたから、てんで説得力がない。マンガの世界でも天才バカボンとか空手バカ一代とか、ごく普通に使われている。ということで、ごく普通に使っていた。

 さすがに大人になってからは、滅多に使えなくなったが、たまには遠慮して「おバカ」と書いている。これはクレヨンしんちゃんの母みさえの口癖がうつったものだ。そして、米国大統領の候補に名乗り出て注目を浴び始めたころから、密かにこの男は、おバカではないかと思っていた。


 さすがはアメリカ合衆国、新しいものが好きで、21世紀に入ってから初の黒人大統領が誕生し、女性大統領候補を破って、おバカが大統領に選ばれた。ここまで堂々とおバカ呼ばわりする気になったのは、彼が部下に水責めの拷問を復活させたいとせがみ、袖にされたという報道に接してからである。

 BBC放送曰く、ドナルドによれば「水責めの拷問は効く」し、「我々は火を以て火を制すべし」だそうだ。初めて知ったが、水責めは英語で 「waterboarding works」というそうだ。妙に穏やかな語感だな。論拠は「専門家たち」によると、水責めは「絶対に」効く(absolutely work)という反応だった由。


 「火を以て火を制すべし」と無理やり訳した原文は、「We have to fight fire with fire.」となっている。ただし、文脈からすると、戦火を交えることではなく、テロリストが相手らしい。

 報道によれば、かつては合法だった。ブッシュのころまで。主な標的はアルカイダだったが、2009年にオバマ大統領が法律で拷問を禁じた。たぶん、ある人物の所在を突き止めたのだろう。二年後にビンラディンが死んでいる。


 やっかいな相談事をお受けしたのは、James "mad dog" Mattis という、プロ・ボクサーのような、なかなか良い名の国防長官で、返事はノー。理由は「タバコ一箱とビール二本の方が好ましい。もっと効く。」というものであった。経験の重みを感じる。

 普通に受け止めれば、懐柔策のほうが拷問より有効だということなのだろうが、酒も煙草も発火性・刺激性のある危険物であり、使いようによっては「ちょっと、いっぷく」では済まないような気もする。特に、この二人の会話においては。


 2008年の大統領選でオバマ候補に敗れた共和党ジョン・マケイン議員は、ベトナム戦争で捕虜になり、拷問を受けた過去を持つ。CNNが伝えたマケインさんのコメントは、「大統領令は大統領なら、いくらでも署名できる。だが法律は法律だ。アメリカ合衆国が拷問を再開することは相成らん。」と一蹴。

 さて、我が日本国ではどうか。憲法第36条に、拷問という恐ろしい言葉が出てくる。そして、憲法でこの箇所にのみ、「絶対に」という副詞が使われている。最強の禁止令なのだ。


【現行憲法】 公務員による拷問及び残虐な刑罰は、絶対にこれを禁ずる。

【改正草案】 公務員による拷問及び残虐な刑罰は、禁止する。


 私の感想は、そのまま今回のタイトルにしました。現状追認の可能性がある。少なくとも、合法的ではあるが、死刑が「残虐な刑罰」であることに異論はあるまい。あるかな。この上なく残虐だからこそ、遺族感情の手当にもなるといったら乱暴すぎるか。

 個人的には、禁固または懲役も(特に独房は)、拷問に等しい。そうでなければ、抑止力にも更生の手段にもなり得ないと思う。凶悪犯を放置しておいては、「公共の福祉」が危険にさらされるから、憲法も一歩譲って、罰則を認めている。

 それなら、今の文面のままで良いのに、「絶対に」を外す意図は何か。上記の考え方の流れでいけば、刑罰をうんと増やしたいからに相違ない。特に、国防軍をご所望である。軍隊の刑罰は厳しかろうなあ。ともあれ、これが美しい国の良き伝統を伝える憲法か...。




(おわり)





最後の一葉  (2017年2月28日撮影)


















































,